橘幸信

橘 幸信

橘 幸信（たちばな ゆきのぶ）は、1957年（昭和32年）生まれの日本の国会職員であり、第17代衆議院法制局長を務めた人物です。長年にわたり衆議院法制局にて、法案作成支援や国会運営に関する専門的な助言に携わりました。

生涯とキャリア

1957年、福島県に生まれました。東京大学法学部第I類（私法コース）を卒業後、1982年（昭和57年）4月に衆議院法制局に入局しました。大学の掲示板に貼られた募集を見て入局を志したと語っており、当初は法制局の業務について抽象的なイメージしか持っていなかったとされています。

入局後は、社会労働委員会、大蔵委員会、厚生委員会、労働委員会、環境委員会、農林水産委員会など、多岐にわたる分野を担当する部署を経験しました。その後、衆議院法制局第四部第二課長（建設委員会担当）、同企画調整監、同第二部長、同法制企画調整部長といった役職を歴任し、衆議院法制次長に就任しました。

キャリアの途中では、衆議院法制局から外部への出向も経験しています。千葉大学法経学部では助教授として立法政策論を担当し、衆議院事務局憲法調査会事務局総務課長も務めました。これらの経験を通じて、学術的な視点と実務的な視点の両方を深めました。

また、大学での教育活動にも積極的に携わりました。法制企画調整部長や衆議院法制次長在任中には、東京大学公共政策大学院・法科大学院で客員教授として立法学を講義しました。さらに、京都大学、早稲田大学、明治学院大学、千葉大学、上智大学といった様々な大学の法科大学院や法学部で非常勤講師を務め、後進の指導にあたりました。

立法への貢献

橘氏は、日本の重要な立法プロセスにおいて実務的な貢献を果たしました。新進党によるNPO法案のプロジェクトチームにおける立案作業や、衆議院法制局第一部第一課（内閣委員会等担当）在任中には、与党3党案および共産党案のNPO法案立案に関与しました。また、衆議院事務局憲法調査会事務局総務課長として、当時の会長であった中山太郎氏を補佐し、少数政党の発言機会を保障するための議事運営を実務的に支援し、野党からの信頼を得ることに貢献したとされています。2007年（平成19年）に成立した日本国憲法の改正手続に関する法律の制定過程では、法案の作成や与野党間の協議を実務面からサポートしました。

政治家や同僚からの信頼も厚く、特に中山太郎氏には師事しており、2023年（令和5年）3月の中山氏の逝去に際しては、同年6月に毎日新聞の「悼む」欄に追悼文を寄稿し、恩師への敬愛の念を記しました。

国際協力への関与

日本の立法・憲法分野における知見を活かし、国際協力にも積極的に参画しました。2012年（平成24年）6月、ベトナムの2013年憲法改正に向けた憲法調査団が訪日した際、仙谷由人衆議院議員の要請に応じ、坪井善明早稲田大学教授の指導を受けてセミナーの講師を務めたことを契機とします。その後、2021年（令和3年）9月までの9年余りにわたり、JICAの事業として実施された「ベトナム国会事務局能力向上プロジェクト」に主体的に参加しました。このプロジェクトでは、恩師である樋口陽一東京大学名誉教授、高見勝利北海道大学・上智大学名誉教授、長谷部恭男東京大学名誉教授・早稲田大学教授といった憲法学の権威らと共に、アドバイザリー・ボードのメンバーとして、国会職員という自身の立場から一貫してプロジェクトの中核的な活動を支えました。

法制局長として

2017年（平成29年）12月8日、第17代衆議院法制局長に就任しました。

法制局長在任中の主な業績として、衆議院法制局の歴史に関する編纂事業があります。2018年（平成30年）12月には、創立70周年を記念し、同局の活動の経緯と現状を詳細に記した『衆議院法制局七十年の歩み』および『同・資料編』を編纂・公表しました。さらに、コロナ禍やデジタル化といった近年の環境変化に対応した5年間の歩みを加筆した『衆議院法制局七十年の歩み（七十五年補遺）』を2023年（令和5年）12月にまとめ、公表しています。

橘幸信氏は、長年の国会職員としての経験を通じて、日本の立法実務、国会運営、そして国際的な法整備支援において重要な役割を果たしてきた人物です。

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