機動戦士ガンダム ヴァルプルギス

『機動戦士ガンダム ヴァルプルギス』は、脚本・海冬レイジ氏と漫画・葛木ヒヨン氏によって手掛けられた日本の漫画作品です。この物語は、ガンダムシリーズの一環として、月刊『ガンダムエース』にて2017年10月号から2023年1月号まで連載されました。

概要

本作は、『ガンダムエース』創刊15周年とガンダムゲーム生誕30周年という記念すべき年に企画された作品であり、ゲーム『スーパーガンダムロワイヤル』との連動イベントも定期的に実施されました。物語の核となるのは、アニメ『機動戦士Ζガンダム』で描かれたグリプス戦役の末期に戦死したとされるパプテマス・シロッコに瓜二つの少年が、謎めいたガンダムに搭乗するという着想です。舞台は、『機動戦士ガンダムΖΖ』で語られた第一次ネオ・ジオン抗争が終結した後の宇宙世紀0089年。すでに歴史の表舞台から消えたはずのハマーン・カーンを名乗る女性や、「グリモア」と呼ばれる未知の存在が登場するなど、物語は冒頭から数多くの謎を提示しながら展開していきます。

単行本の各巻末は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『ハムレット』から「To be, or not to be: that is the next question.（生きるべきか、死ぬべきか、それが次の問題だ）」という一節が引用されて締めくくられます。ただし、最終巻である第10巻のみは「fin」という言葉で締めくくられています。
当初は全9巻での完結が予定されていましたが、物語の展開上、予定外のモビルスーツであるタイタニアIIを登場させることになり、結末に大幅な変更が加えられた結果、最終的に全10巻で完結となりました。

ストーリー

第一次ネオ・ジオン抗争終結から半年が経過した宇宙世紀0089年7月、エゥーゴのアーガマ改級強襲用宇宙巡洋艦「ユーロン」を旗艦とする艦隊が、サイド2コロニー「オリンポス」宙域に潜伏するネオ・ジオン残党の掃討作戦を開始します。その混乱の中、戦死したはずのハマーン・カーンと瓜二つの女性が率いる別のネオ・ジオン残党が出現します。

オリンポスに暮らす高校生のマシロ・オークスは、戦闘の余波でコロニー外へ吸い出されてしまいます。彼の前に白いジ・Oに酷似したモビルスーツが現れますが、マシロは飛来した鉄柵に体を貫かれ意識を失います。そのモビルスーツのパイロット、フィオリーナ・フィリーはマシロの姿を見て「パプテマス様が死んだ」と絶望し、失神してしまいます。しかし、マシロは父トニオの車内で目を覚まし、傷口は不思議と塞がっていました。トニオに促され、マシロは学院のシェルターへと避難します。

ユーロンには別の密命がありました。別働隊のアナハイム・エレクトロニクス（AE）社に所属するレイモン・メキネスは、マシロを「シャマール」「パプテマス・シロッコ」と呼び、特殊部隊「マスティフ」を用いて拘束しようとします。しかし、再び白いジ・Oが自動操縦で現れ、マシロはコックピットに乗り込みます。そこへ同様にマシロを追うハマーンを名乗る女性のディマーテルと、それを阻止せんとするエゥーゴのセイン・アマディオが搭乗するΖII V型が現れ、三つ巴の戦いが勃発します。激しい戦闘の最中、白いジ・Oの外装が剥がれ落ち、ガンダム・タイプであるオーヴェロンの真の姿が現れます。同時にマシロは何者かに憑依されたかのように覚醒し、卓越した能力を発揮してディマーテルと互角に渡り合い、ネオ・ジオン残党の戦艦すら撃沈します。

僚艦を失ったユーロンは、気を失ったマシロとオーヴェロンを回収し、オリンポスのドックに逃げ込みます。ハマーンはオリンポスに圧力をかけ、退去を迫られたユーロンは正面突破を決行します。マシロは一度は搭乗を拒否しますが、自らの意思でオーヴェロンに乗り込み出撃します。しかし、覚醒していない状態では素人の操縦技術のため、エルナルド・バトのザク・マシーナリーに捕獲されてしまいます。再び覚醒したマシロはエルナルド機を退け、ディマーテルをハイ・メガ・キャノンでオリンポスごと消し去ろうとしますが、セインの必死の呼びかけとフィオリーナとの精神感応により、寸前で正気を取り戻します。ユーロンは脱出に成功し、月のグラナダに入港します。そこでは、マシロの身柄確保を命じたクリストフ准将が待っていました。

1週間後、クリストフはグリモアの秘密解明のためオーヴェロンへの搭乗を拒むマシロに対し、「人格調整」を行おうとします。これを危惧したレイモンは、配下の強化人間アリーゼ・マテバのファーヴニルを使ってマシロとオーヴェロンを連れ去ろうとしますが、マシロはこれを拒絶。激昂したアリーゼとの交戦中、地下に隠されていたジ・Oの残骸とオーヴェロンが共鳴し、「隠し腕」が展開されます。さらにファーヴニルとも共鳴したオーヴェロンは、外装が剥がれ落ちてΖΖガンダムの改修機としての本来の姿と性能を表します。混乱の中、潜入していたエルナルドがモビルスーツでフィオリーナを連れ去り、その際の破壊に巻き込まれたクリストフは命を落とします。

オーヴェロンとジ・Oの残骸との共鳴を通じて、マシロはジュピトリスの秘匿区画「アンブロージア」のビジョンを見ます。そこにはマシロと同じ顔をした複数の人間がコールドスリープされていました。アンブロージアはジュピトリス轟沈直前に切り離されており、クリストフは暗礁宙域に隠されていると推測していました。フレドリカはエゥーゴ上層部の黙認を得て、マシロたちを乗せたユーロンで暗礁宙域へと向かいます。レイモンも民間軍事会社（PMC）を雇い、彼らを追跡します。

3日後、再びファーヴニルと交戦したオーヴェロンは、「ガンダム」状態になれず苦戦を強いられますが、フィオリーナの姉コンチェッタのメッサーラ・グラシュティンの支援により、マシロは覚醒することなく「ガンダム」となります。ファーヴニルとの共鳴の中で、アリーゼの過酷な過去を垣間見たマシロは彼女を救いたいと強く願い、その意思にオーヴェロンが応えてアリーゼをファーヴニルから引き離すことに成功します。敵であったアリーゼはユーロンで軟禁されます。

その直後、マシロは完全に何者かに乗っ取られ、オーヴェロンを強奪して脱走します。セインは高機動仕様のΖII V型で追撃しますが、必死の呼びかけも虚しく撃破されてしまいます。「シロッコの復活」と目されるシャマールと化したマシロはレイモンと合流し、暗礁宙域にあるサイコ・フレア「オルフェウス」を起動させます。ネオ・ジオン残党の旗艦に乗るフィオリーナはシャマールの様子に違和感を覚え、オルフェウスを止めるため、ハマーンを「嵐の庭」と呼ばれるジュピトリス残党組織「クラン」の拠点へ招き、大型可変モビルアーマー・デルフィニウムを譲渡します。デルフィニウムのパイロットは、エルナルドに救助されていたセインが務めることになります。

一方、ユーロンではフレドリカが戦力増強のためアリーゼを解放し、陽動の隙にPMCの母艦「フラワーガーデン」からファーヴニルを奪取する「ホーネット・スティング作戦」を発動します。デルフィニウムはオーヴェロンと互角に渡り合い、マスティフはフラワーガーデンの占拠に成功します。コンチェッタはユーロンに協力を申し出、「開かずのコンテナ」に秘匿されていたオリジナルのメッサーラに搭乗します。フィオリーナの思念体と共に、シャマールはシロッコではないと断じ、シロッコの最期を再現するかのようにMA形態でオーヴェロンに特攻をかけます。肉体を失い思念体となったシャマールは、オルフェウスの「真の力」を発動させます。それは、周囲の人々の感情を奪い、無気力にさせるという恐るべきものでした。

一方で、破壊を免れたオーヴェロンのコア・ポッドのコックピットで、マシロは三度目を覚まします。トニオが残したビデオレターにより、マシロは自らの出生の秘密（有機合成されたバイオロイドであること）を知り動揺しますが、まずは目の前のオルフェウス破壊を優先します。しかし、コア・ポッド単体では防衛システムに対抗できません。マシロが失ったはずのオーヴェロンの名を叫んだその時、「開かずのコンテナ」の一つからフルアーマー・オーヴェロンが起動し、コア・ポッドと合体します。マシロが死者たちの思念体に体を借りてのハイ・メガ・キャノンの一撃によりオルフェウスは破壊され、シャマールの思念体もシロッコの姿となって消滅します。

周囲の人々は正気を取り戻し、事態は収束に向かうかに見えました。しかし、シロッコ復活に失敗したクランは、戦力再建のため往還船「ジュノーン」で木星圏への脱出を図ります。師父ハイファンに逆らったフィオリーナを拘束・「調整」するため、彼女を連行しようとします。マシロはそれを阻止すべくジュノーンを追撃し、迎撃に出たモビルスーツ隊を退け追い付きますが、ジュノーン艦内からタイタニアIIが現れ立ち塞がります。フィオリーナは無人のタイタニアIIのコックピット内で薬物を投与され、ハイファンの傀儡としてマシロと交戦します。一連の戦闘に巻き込まれる形でクランは壊滅し、マシロの必死の呼びかけによりフィオリーナの説得に成功したかに見えますが、彼女はこれまでの記憶のほとんどを失ってしまいます。記憶を失ったフィオリーナに対し、マシロは生まれ変わったつもりで共に未来を考えようと語りかけます。

『ヴァルプルギスEVE』

『機動戦士ガンダム ヴァルプルギス』では、物語の焦点が主人公に絞られたため、多くの謎が未 giải 明のまま残されました。そのため、本作の前日譚にあたる『機動戦士ガンダム ヴァルプルギスEVE』が『ガンダムエース』にて短期集中連載されています。

主な登場人物

マシロ・オークス: 物語の主人公。一見普通の高校生だが、その正体はシロッコの人格と記憶を受け継ぐために開発されたバイオロイド。シャマールに体を乗っ取られるが、最終的に自分自身の存在を取り戻す。
シャマール: パプテマス・シロッコの残留思念がマシロの肉体を乗っ取った存在。強大なニュータイプ能力を発揮するが、その正体や意志には謎が多い。
フィオリーナ・フィリー: 本作のヒロイン。シロッコを崇拝し、「グリモア」を体に焼き付けてオーヴェロンを起動させる「白の魔女」。
コンチェッタ・フィリー: フィオリーナの姉。妹同様にタリスマンを持ち、メッサーラを駆って妹をサポートする。
トニオ・オークス: マシロの父親代わり。元クランの研究者で、マシロ（素体）とグリモアをAE社に持ち込み、マシロを育てる。
ハマーン・カーンを名乗る女性: ネオ・ジオン残党を率いる女性。その正体はハマーンの妹、セラーナ・カーン。
エルナルド・バト: ネオ・ジオン残党のパイロット。その実態はクリストフ准将の長男であり、セインの旧友。
フレドリカ・エルメ: エゥーゴ所属、ユーロン艦長。人命優先の指揮を執る。
セイン・アマディオ: エゥーゴ所属のΖII V型パイロット。マシロの友人として彼を案じる。
レイモン・メキネス: AE社所属。シロッコ復活を目論む。
アリーゼ・マテバ: 強化人間。ファーヴニルのパイロットで、レイモンの部下。過去に過酷な経験を持つ。

登場メカニック・用語

オーヴェロン: シロッコが構想した次世代MS。白いジ・O型の外装を持つが、剥がれることでガンダム・タイプとなる。グリモアと連動して真の力を発揮する。
フルアーマー・オーヴェロン: オーヴェロンのスペア機に強化装甲を施した形態。ハイ・メガ・キャノンなどを装備する。
デルフィニウム: ガンダム試作3号機に酷似した大型可変MA。クランによって改修され実戦投入される。
グリモア: シロッコが開発したサイコミュの一種。極小の演算素子のネットワークであり、人や機体に組み込むことが可能。
エルドリッジ・システム: グリモア搭載機が周囲のMSの関節や変形機構をロックする現象。
オルフェウス: サイコ・フレアと呼ばれる巨大な球形構造物。周囲の人間の感情を鈍らせる「真の力」を持つ。
アンブロージア: ジュピトリス内の秘匿区画。グリモアやシャマールの研究が行われ、シャマールのスペアが保存されている。

本作は、過去の因縁と最新技術が交錯し、様々な思惑が渦巻く宇宙世紀の世界を、謎とアクションを織り交ぜながら描き出しています。

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