檜山廣

檜山 廣（ひやま ひろ）は、明治42年（1909年）12月18日に生まれ、平成12年（2000年）12月25日に91歳で生涯を閉じた日本の実業家です。総合商社である丸紅において、社長や会長といった要職を歴任し、同社の立て直しに大きな功績を残したことから、「中興の祖」とも評されました。ビジネスの舞台で国際的な視点を持つ論客としても知られましたが、後年のロッキード事件では中心人物の一人として名を連ね、有罪判決を受けるという波乱の経歴をたどりました。

その生涯は、現在の茨城県那珂市にあたる那珂郡那珂町の地で始まりました。旧制水戸中学校を経て、高等教育機関である東京商科大学（現在の一橋大学）に進学。大学時代には、柔道部でエースとして活躍した記録が残っています。昭和7年（1932年）に大学を卒業すると、大同貿易に入社し、商社マンとしてのキャリアをスタートさせました。

第二次世界大戦後、同社は丸紅飯田（後の丸紅）と経営統合。檜山氏は昭和27年（1952年）に丸紅飯田の取締役に就任しました。その後も順調に昇進を重ね、昭和32年（1957年）に常務取締役となり、専務、副社長と役職を上げていきます。そして、昭和39年（1964年）には同社の社長に就任し、経営のトップに立ちました。さらに昭和50年（1975年）には会長に就任し、丸紅の成長を牽引しました。この時期の辣腕ぶりと業績への貢献から、彼は丸紅の再建を成し遂げた「中興の祖」として位置づけられています。

しかし、昭和51年（1976年）に発生したロッキード事件は、檜山氏のキャリアに暗い影を落としました。この疑獄事件において、彼は贈賄に関与した中心人物としてその名が挙がります。国会での証人喚問では、問題となった領収書に記された「ピーナツ」「ピーシズ」といった文言の意味は全く知らなかったこと、金品の授受には一切関与していないこと、丸紅がロッキード社から正規の手数料以上の金銭を受け取った事実は断じてないこと、そして関係者の「金品の授受は一切関知していない」という報告は事実であると確信していることなどを証言しました。

しかし、これらの証言は偽証として告発される事態に至り、同年には贈賄罪、外国為替及び外国貿易管理法違反、議院証言法違反の容疑で逮捕、起訴されました。裁判は長期間に及び、昭和58年（1983年）には一審で懲役2年6ヶ月の実刑判決を受けます。その後も上告を続けましたが、平成7年（1995年）に最高裁判所で判決が確定しました。しかし、この頃には高齢であり、また心臓病という持病を抱えていたため、刑の執行は停止されました。

ロッキード事件の渦中、昭和51年（1976年）8月には丸紅の全ての役職を辞任しました。それでも、昭和60年（1985年）からは平成11年（1999年）3月まで、丸紅の初代名誉顧問を務めています。事件の前には、日本貿易会の副会長や、日本経済団体連合会の常任理事、経済同友会の常任監事といった経済界の主要な役職も歴任していました。

また、昭和40年（1965年）には藍綬褒章を受章するなど、その功績が認められたこともありましたが、平成7年（1995年）3月7日には、有罪判決を受けてこの栄典を褫奪（ちだつ）されています。判決確定後も執行停止のまま自宅で療養生活を送り、平成12年（2000年）12月25日に東京都品川区の自宅で、心不全のため静かに息を引き取りました。91歳でした。稀代の実業家でありながら、戦後最大の疑獄事件に関与した人物として、その生涯は光と影の両面を持ち合わせていたと言えるでしょう。

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