櫂 (小説)

小説『櫂』の世界

『櫂』（かい）は、宮尾登美子が執筆した長編小説で、1972年に自費出版された後、1973年には太宰治賞を受賞しました。翌年から1974年にかけて、筑摩書房によって上下巻として発売され、その後も中公文庫やちくま文庫、新潮文庫に収録されています。この作品は、宮尾の自伝的な四部作の一作目として位置づけられ、彼女自身の家族をモデルにした人物たちを描き出しています。

あらすじ

この物語の主人公は、15歳で渡世人の男、岩伍に嫁いだ喜和です。彼女は、高知の下町で育ち、その後、岩伍の稼業に巻き込まれていきます。岩伍は女衒として活動し、喜和はその世界で苦悩しながらも、彼に適応しようと努力します。しかし、育った環境の違いから、喜和は次第に岩伍の職業に疑問を抱き、二人の関係は徐々に崩れていきます。

登場人物

• - 富田喜和: 主人公。岩伍の妻で、彼の行動に翻弄されながらも、次第に本心を表現するようになる。
• - 富田岩伍: 喜和の夫で、渡世人。自らの職業に誇りを持ちながらも、彼の過去が影を落とす。
• - 菊: 富田家で育てられた子供。岩伍に10円で買われ、喜和に育てられる。
• - 竜太郎: 喜和の長男。病弱で肺病を抱える。
• - 健太郎: 喜和の次男。反抗的な性格。

書誌データ

『櫂』は、その後もさまざまな形で出版され続け、映画化やテレビドラマ化されるなど、多くのメディアで親しまれています。映画版は1985年に公開され、五社英雄監督が手がけた作品には緒形拳と十朱幸代が主演し、大正の時代背景の中で、愛憎が交錯する人間ドラマが描かれています。

メディア展開

『櫂』は、1975年と1999年にテレビドラマとしても放映されています。1975年版は全12話に渡って制作され、1999年版では松たか子の主演により新しい解釈が加えられました。特に1999年版は、『藏』や『春燈』と続く宮尾登美子三部作の最終章として評価されています。

映画およびテレビドラマ

映画版の公開に際しては、主題歌として小椋佳の「かなうなら夢のまヽで」が用いられ、当時の観客に深い印象を残しました。テレビドラマ版は、その時代に合わせてアレンジが施されつつも、原作が持つテーマを忠実に表現しています。

まとめ

『櫂』は、単なる物語以上のものであり、宮尾登美子が描く高知の花街の生活や、愛と苦悩が交錯する人間模様は、読者に深い感銘を与え続けています。大正から昭和初期の高知という舞台を背景に、喜和の物語を通じて、人々の生々しい感情や道徳観が浮き彫りになります。愛憎渦巻く人生の中で、喜和がどのように自らの道を選択していくのか、その成長がこの作品の魅力の一つでもあります。

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