櫛巻き

櫛巻き（くしまき）とは

「櫛巻き」は、江戸時代に女性の間で結われた髪型の一つです。数ある女髷の中でも、その結い方に大きな特徴があり、非常に手軽にできる形として知られています。髷を形作る際に櫛を巧みに利用する独特のスタイルを持ち、その簡便さから多くの女性に支持されました。

粋を好む女性たちに愛されて

この髪型は、主に粋な身なりを好む女性たちに愛されました。特に、芸者や女師匠といった芸能に携わる人々がよく結っていたことで知られています。彼女たちは人前に出る機会が多く、見た目には気を使う一方で、結い方に時間がかからないことが重要でした。櫛巻きはまさにその要求に応える髪型だったと言えます。

また、結うのに時間がかからないことから、日常忙しく立ち働く職業を持つ女性たちにも広く受け入れられていました。家事や商売などで活動的に動き回る必要のある女性たちにとって、手軽に結えて崩れにくい（または簡単に直せる）髪型は重宝されたのです。

宝暦年間の流行

櫛巻きが特に世に広まり、流行したのは、宝暦年間（1751年〜1764年）のことと伝えられています。この時代、浅草寺への参拝客に大変親しまれた「湊屋お六」という名物娘がこの髪型を結っていたことがきっかけとなり、広く知られるようになったと言われています。名物娘が結う髪型として注目され、多くの女性が真似をするようになったのでしょう。

簡便な結い方

櫛巻きの結い方は比較的シンプルです。まず、後ろ髪の一部を取り分け、これを櫛に巻きつけて髷の核とします。このとき、身分や状況によって櫛の挿し方に慣習がありました。未婚女性は櫛を髪の流れに沿って水平または斜めに挿すのが一般的でしたが、既婚女性は櫛を逆向きに、つまり歯が上を向くように挿すことがあったようです。巻きつけ終わった毛先は、髷の根元に綺麗にまとめつけて形を整えます。この一連の作業は、手慣れた者であれば、わずか5〜6分ほどで結い上げることができたと言われるほど、手軽さが最大の魅力でした。

日常使いと粋な印象

その簡便さゆえか、かっちりとした、いかにも結い上げましたという印象よりは、やや崩れた、こなれた雰囲気を醸し出すのが特徴でした。このため、格式張らない、粋な装いを好む女性たちに特に好まれたのです。また、手軽に結えるため、髪を洗った後など、一時的に結う仮の髪型としても用いられました。さらに、家事や仕事で忙しく立ち働くことの多い職人の妻など、日常的に活動的な女性たちの普段の髪型としても定着しました。

俳諧句集『俳風柳多留』には、「櫛巻きにするのが嫁の崩し初め」という句が見られます。これは、嫁入り前の娘が formal な髪型を結っていたのが、結婚して実家で少しくつろぐ際に、この手軽でやや崩れた櫛巻きを結うようになる、といった情景を描いたものと考えられ、櫛巻きが日常的でくつろいだ場面にも適した髪型であったことを示唆しています。

このように、櫛巻きは江戸時代の女性たちの実情に寄り添った、機能的でありながらも粋な雰囲気を兼ね備えた髪型だったと言えるでしょう。

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