欲擒姑縦

欲擒姑縦（よくきんこしょう）

欲擒姑縦は、兵法三十六計の第十六計に数えられる戦術で、「擒（とら）える事を欲するならまず逃がせ」という意味を持ちます。敵を追い詰めるのではなく、あえて逃がすことで、最終的に捕獲しやすくするという戦略です。欲擒故縦とも書き、「姑」は「姑且（こしょ、暫時の意）」、「故」は「故意」を由来とします。

戦術のポイント

敵との戦力差が十分にない場合、追い詰められた敵は必死に抵抗し、予期せぬ反撃を受ける可能性があります。これを避けるために、敵に逃げ道を与え、油断させるのが欲擒姑縦の狙いです。逃げる敵は闘志を失い、戦力が低下するため、容易に捕獲できます。孫子はこれを「窮寇は追うなかれ」と表現しました。

「姑縦」は、単に敵を解放するのではなく、敵の動きを常に監視し、機を見て捕らえることを意味します。敵を泳がせておき、しかるべきタイミングで仕留めるイメージです。

七縦七擒の故事

三国志において、蜀の諸葛亮が南蛮王・孟獲を七度捕らえては解放したという有名な故事があります。これは、孟獲を破ることで蜀の武威を示し、解放することで寛容さを示すことで、南蛮の諸族を心服させるためのものでした。ただし、これは純粋な兵法というよりは、政治的な意図が強い戦略と言えます。

軍事的な応用

軍事的な観点から見ると、欲擒姑縦は、敵を特定の場所に集結させて包囲殲滅したり、逆に敵を分散させて各個撃破したり、敵の本拠地を特定したりする目的で行われることがあります。 捕虜を意味もなく解放するのではなく、戦略的な意図を持って行うことが重要です。

実戦での事例

呉が楚を侵攻した際、呉軍は楚軍を清発川に追い詰めましたが、孫武は追撃を緩めました。その理由は、「今追い詰めれば敵は死に物狂いで戦うが、半数が川を渡るまで待てば、残りの半数は戦意を喪失する」と考えたからです。この判断が功を奏し、呉軍は楚軍に大勝しました。

まとめ

欲擒姑縦は、敵を追い詰めるのではなく、状況を冷静に判断し、敵の心理を読みながら勝利を目指す、奥深い戦術です。敵の戦意を喪失させ、有利な状況を作り出すことで、より少ない犠牲で目的を達成することができます。

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