歌わせたい男たち

歌わせたい男たち

『歌わせたい男たち』は、永井愛によって作られた演劇作品であり、特に日本の国歌や国旗に関する問題をテーマにしています。この喜劇は、卒業式の日を迎えた都立高校の保健室を舞台に繰り広げられ、主に音楽の講師が主人公として描かれています。物語の中心は、卒業式で国歌『君が代』を歌わせようとする教師と、シャンソンを通じて国歌の歌唱に反対する左翼教師との対立です。

背景

永井愛は、国歌に関する問題を取り上げることに対して最初は恐怖を感じていました。しかし、日々の考察を経て、こうした問題に直面する人間の心の動きや葛藤こそが表現に値すると気付いたと言います。彼は、社会問題そのものを描くのではなく、その問題に直面する人間の深い感情を浮き彫りにすることを目指しているとのことです。批判を恐れず、自身の内なる欲求を追求する姿勢が作品に反映されています。

あらすじ

物語は、卒業式まで数時間を切った都立高校の保健室から始まります。仲ミチルという音楽講師は、かつて売れないシャンソン歌手だった過去を持ち、初めての卒業式を迎えようとしています。彼女はピアノ伴奏の稽古を重ねていますが、緊張のあまり上手く弾くことができず、さらには自らの服にコーヒーをこぼしてしまうというハプニングに見舞われます。

その後、ミチルは保健室で養護教師の按部に助けられ、彼女の元に与田校長がやってきます。校長は、ミチルの前任者が国歌斉唱に反対したことで辞職したことを告げ、今年の式では問題なく伴奏ができるか確認します。しかし、ミチルは倒れた際に片方のコンタクトレンズを失くしてしまい、楽譜にも支障をきたしていることに気が付きます。

この高校では昨年の卒業式で、教師たちと多数の生徒が国歌斉唱で不起立し、問題が新聞に取り上げられたため、校長は今年の卒業式を穏便に済ませよう考えていました。そこへ、不起立を訴える元教師が校門でビラを配ろうとする場面が入り混じります。

また、拝島という社会科教師も登場し、彼は国歌斉唱に対して起立しない意見を主張します。彼とミチルの間にも激しい対話が交わされ、シャンソンの歌を通じて自由や権力への抵抗の意味が討論されます。

物語は続き、与田校長は自らの過去の思想に疑義を呈し、内心の自由を巡る演説を行います。彼の言葉には、自身の成長や変化が色濃く表れています。ミチルは拝島に向けてシャンソンを歌いながら、劇は幕を閉じますが、実際の卒業式の展開は描かれません。

この作品は、社会的議論を巻き起こす要素が多く含まれており、それだけでなく人間の深い感情や人間関係が繊細に描かれています。日本における国歌問題への鋭い視点と共に、人間の美しさや滑稽さが同時に表現されることが本作の魅力ですが、まさにそのギリギリの人間性を挑む作品です。

演出と作を担当した永井愛は本作によって、観客に自らの心の模様を映し出すことをダイナミックに成し遂げているのです。

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