歌人II

村下孝蔵のディスコグラフィーにおいて、通算2枚目のベスト・アルバムとして位置づけられるのが、1987年に発表された『歌人II 〜ソングコレクション〜』です。

この作品は、前作にあたるベスト盤『歌人〜ソングコレクション〜』の流れを汲みつつも、選曲においては明確な特徴を持っています。前作と同様に、シングルとして発表された楽曲と、オリジナル・アルバムに収められていた楽曲の中からセレクトされていますが、収録されているのは主に『歌人〜ソングコレクション〜』のリリース以降に発表された楽曲群です。

具体的に選曲の範囲を見ていくと、アルバム『花ざかり』やシングル「夢のつづき」の頃から、アルバム・シングル「陽だまり」に至るまでの期間にリリースされた作品が中心をなしています。ただし、必ずしもこの期間に限定されているわけではなく、『花ざかり』より以前に発売された初期のアルバムに収録されていた楽曲も一部含まれています。

特筆すべき選曲としては、村下孝蔵の記念すべきデビューシングルでありながら、前作のベスト盤には収録されなかった「月あかり」が本作で初めてベスト盤に収められた点が挙げられます。また、アルバムタイトルにも通じる重要な楽曲「歌人」も、前作未収録でしたが本作に収録されました。これにより、初期の代表曲が初めて網羅されたベスト盤としての側面も持っています。

本作がリリースされた1987年という年は、日本の音楽ソフト市場において、従来のLPレコードからコンパクトディスク（CD）への移行が急速に進んでいた過渡期にあたっていました。当時、新作アルバムはLPとCDの両方のメディアで発売されるのが一般的でしたが、『歌人II 〜ソングコレクション〜』は例外的に、CDとカセットテープ（CT）のみでの発売となり、LPレコードは製造されませんでした。

これは、本作の収録時間自体はLPレコードに収めることが十分に可能であったにもかかわらず、レコード会社の親会社であるソニーが、当時普及途上にあったCDプレーヤーおよびCDソフトの販売を強力に促進するための戦略的な判断であったとされています。LPを発売しないことで、リスナーにCDまたはカセットテープでの購入を促す狙いがあったと考えられます。

発売当時の価格は、CDが3200円、カセットテープが2800円でした。この価格設定も、CDが新しい高音質メディアとして高めの価格で販売されていた当時の状況を反映しています。

以下に本作の収録曲リストを記載します。

収録曲

SIDE 1

陽だまり
ねがい
夢のつづき
とまりぎ
月あかり
モ・ザ・イ・ク

SIDE 2

かざぐるま
哀愁物語 -哀愁にさようなら-
美しすぎるミステイク
離愁
約束
歌人

『歌人II 〜ソングコレクション〜』は、村下孝蔵の中期から後期の代表的な楽曲をまとめた作品であると同時に、日本の音楽ソフト市場におけるメディアの変遷期を象徴するリリースのあり方という点でも、興味深い一枚と言えるでしょう。

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