歓びの毒牙

『歓びの毒牙』は、1970年に製作されたイタリアと西ドイツ合作のサスペンス・スリラー映画です。原題はイタリア語で『L'uccello dalle piume di cristallo』、英題は『The Bird With The Crystal Plumage』といい、鳥の名称がタイトルに含まれています。本作は、後にイタリアン・ホラー映画界を代表する巨匠となるダリオ・アルジェントが、監督として初めて手掛けた記念碑的作品です。

物語の舞台はイタリア。アメリカから訪れた作家のサム・ダルマスは、ある夜、立ち寄った画廊で衝撃的な光景を目撃します。画廊内で男女が争っているのを目撃したサムは、止めに入ろうと試みますが、その最中に女性が負傷してしまいます。駆けつけた警察によって、サムは事件の関係者として扱われることになります。負傷した女性は、その画廊の経営者であるラニエリ氏の妻、モニカでした。彼女は、最近世間を騒がせている連続殺人事件の4人目の被害者であることが判明します。この連続殺人事件は、いずれもブロンドの女性ばかりが狙われるという共通点がありました。

サムは事件現場で、被害者以外の誰かによって発せられたと思われる、奇妙で不気味な鳥の鳴き声を聞いていました。警察の捜査とは別に、この鳥の鳴き声を唯一の手がかりとして、サムは事件の真相を独自に追い始めます。彼の捜査が進むにつれて、事件は予期せぬ方向へと展開していきます。

本作の監督と脚本は、デビュー作となるダリオ・アルジェント自身が担当しています。製作はサルヴァトーレ・アルジェントが務めました。原作は、アメリカの作家フレドリック・ブラウンが1949年に発表した推理小説『通り魔』（原題：The Screaming Mimi）に基づいています。この原作は、日本では森本清水の翻訳により、1963年に東京創元新社から創元推理文庫として刊行されています。

スタッフには著名な映画人が名を連ねています。撮影監督は、後にアカデミー撮影賞を複数回受賞する名手ヴィットリオ・ストラーロ。彼の映像美は、アルジェントの鮮烈な色彩感覚と組み合わさり、本作に独自の視覚的魅力を与えています。音楽は、映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネが担当。彼の生み出す不穏で緊張感あふれるスコアは、作品のサスペンスフルな雰囲気を一層高めています。

『歓びの毒牙』は、アルジェント監督が後に確立するジャッロ映画のスタイル、すなわち、視覚的な強調、心理的なサスペンス、印象的な音楽、そして謎解きといった要素の萌芽が見られる作品として重要視されています。その後の彼の作品群へと連なる独特の美学と残酷描写は、既にこのデビュー作においてその片鱗を覗かせており、イタリア映画史、特にホラー・スリラー映画の分野において、確固たる地位を占める作品と言えるでしょう。

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