正しい戦争と不正な戦争

『正しい戦争と不正な戦争』概説

『正しい戦争と不正な戦争』は、アメリカの政治哲学者マイケル・ウォルツァーが1977年に発表した著作で、戦争に関する倫理的な考察を深めることを目的としています。本書では、戦争の道徳的側面を法学の枠組みではなく、政治哲学の観点から論じており、戦争の本質とその人道的な影響について深い洞察を提供しています。

章構成と内容概略

本書は、全19章にわたり戦争に関連するさまざまなテーマを扱っています。第1章では「リアリズム」に抗いながら、戦争における道徳的認識を問題提起します。第2章から第4章にかけては、戦争の犯罪やルール、国際社会の法と秩序に触れ、戦争の正当性を考えます。

ウォルツァーは戦争の倫理を理解するための重要な概念として、「ユス・アド・ベルム」と「ユス・イン・ベロ」という2つの道徳を挙げています。これらはそれぞれ「戦争への正義」と「戦争における正義」という意味であり、戦争目的と手段の正当性についての異なる視点を提供します。ユス・アド・ベルムは戦争の大義について、そしてユス・イン・ベロはその戦争を遂行する方法についての倫理的な考察を行います。

ウォルツァーは、正当な戦争目的は自衛のための戦争に限定されるとしつつも、自衛の範囲に含まれる先制攻撃や人道的介入といった曖昧な問題も指摘します。加えて、戦争を遂行する際の手段に関しては、戦闘員は戦場では平等であるが、非戦闘員は絶対に守るべき存在であると強調します。この考え方に基づくと、市街地における戦闘やゲリラ戦など、市民が無関係ではいられない状況が生じることについても触れています。

さらに、ウォルツァーは勝利と倫理的に正しく戦うことの間に存在するジレンマを提起します。このジレンマは、勝利を追求するあまりに倫理が軽視される危険性を示しており、戦争の急迫した危険が法規を覆すことをどのように理解するかという問題は、現実主義の哲学的立場によって探求されます。

最終的に、ウォルツァーはリアルな戦争の中で道徳が従わないかもしれないという現実主義に立ちつつ、国際法の枠組みを通じて戦争における倫理の領域を拡大する必要性を唱えています。具体的には、戦闘員が一般市民を攻撃してはならないという慣行を守ることが、戦争全体の暴力を抑制する手立てに繋がると主張しています。

結論

『正しい戦争と不正な戦争』は、戦争についての深い思索を促すだけでなく、倫理と実践の交差点に立つ重要な議題を扱っています。ウォルツァーの議論は、戦争に対する私たちの理解をより豊かにし、未来の戦争について考えるための基盤を提供しています。このように、戦争の多面的な問題に取り組む本書は、今日の社会においてもなお有意義な議論を呼び起こすものと言えるでしょう。

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