正宗文庫

正宗文庫：歌人正宗敦夫の蒐集と文化遺産の継承

岡山県和気郡に位置する正宗文庫は、国文学者であり歌人でもあった正宗敦夫氏が生涯をかけて収集した貴重な古典籍や資料を収蔵する施設です。1936年（昭和11年）、敦夫氏の郷里であるこの地に、自身の自宅敷地内に書庫を設ける形で設立されました。その後、財団法人として認可を受け、今日まで多くの貴重な文化遺産を保存し続けています。

正宗文庫の設立は、敦夫氏の学問への深い情熱と、後世への貢献を願う強い意志の表れと言えるでしょう。自身の研究活動で集められた膨大な古典籍を、単に私的に保管するのではなく、広く一般に公開し、研究に役立ててもらうという目的がありました。その目的意識は、文庫の運営方針や資料の公開方法にも反映されており、研究者や一般の人々にとって貴重な研究資源となっています。

文庫には、古典籍や古文書といった資料以外にも、貴重な美術品も収蔵されています。中でも、著名な琴家である浦上玉堂が製作した七絃琴は、正宗文庫の重要なコレクションの一つです。玉堂の琴は、その精緻な造りと美しい音色で知られており、正宗文庫が単なる古典籍の保管庫にとどまらず、幅広い文化遺産を保存する拠点となっていることを象徴しています。

正宗敦夫氏の没後、館長職は息子の甫一氏、そして孫の正宗千晴氏へと引き継がれ、三代にわたって文庫の運営と資料の保存管理が続けられています。これは、正宗家による文化遺産への深い愛情と責任感の表れであり、正宗文庫が今日まで存続し、発展し続けている大きな要因の一つと言えるでしょう。

正宗文庫の所蔵資料は、日本の古典文学研究において重要な役割を果たしています。小川剛生氏による『正宗文庫目録』（国文学研究資料館、『調査研究報告』29、2009年）は、文庫所蔵資料の現状を詳細に紹介しており、研究者にとって貴重な情報源となっています。また、正宗文庫では、セミナーや講演会などの公開イベントも開催されており、地域社会への貢献にも力を入れています。

正宗文庫は、単なる資料保存施設ではなく、日本の文化遺産を未来へ繋ぐための重要な拠点です。今後とも、貴重な資料の保存・公開を通じて、学術研究の発展と地域文化の振興に貢献していくことが期待されます。その活動は、正宗敦夫氏の遺志を継承し、日本の文化遺産を未来へ繋ぐ上で、重要な役割を担っていると言えるでしょう。正宗文庫の存在は、日本の文化史を研究する上で欠かせない存在であり、今後もその役割を担い続けることが期待されます。

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