武蔵野鉄道クハ5855形電車

武蔵野鉄道クハ5855形電車

武蔵野鉄道が1940年に製造したクハ5855形電車は、同社の運行体系における重要な役割を果たした通勤電車です。この車両は、大正から昭和初期にかけて経営危機を体験し、経営再建を遂げた結果、新たに導入されたもので、そのデザインや機能面においてもその時代を反映しています。

背景

武蔵野鉄道は、昭和初期に大恐慌の影響を受けたことにより深刻な経営危機に直面しました。特に1929年以降、毎年赤字を計上し続け、1934年には債権者による強制執行が実施され、事実上破産状態にまで至りました。この時期の経営改善の努力が実を結び、1938年に経理管理が解除されると、景気回復の波に乗じて輸送人員や収入が増加しました。

経営が改善される中、1940年にはようやく新たな車両の導入が決定され、武蔵野鉄道のクハ5855形が製造されました。これに続き、同年11月にはほぼ同じスペックのクハ5860形も製造され、事実上の増備車として登場します。

車両仕様

クハ5855形と5860形の車両は、全長約17メートルの半鋼製で、車体の構造は普通鋼が主に使用されています。前後の妻面はまろやかな曲線を描き、両運転台構成であるため両側からの運転が可能です。また、側面の窓は二段構造に拡大され、設置位置も改善されました。扉は片開きのデザインで、当初は高低差のある乗降ステップが設けられていましたが、後に撤去されています。

この形式の特徴として、戦争の影響で資材が不足していた時期に、中古部材を積極的に活用して新製された点があります。このような経済状況を反映した設計は、戦時設計とも呼ばれ、当時の鉄道業界における調整の一環でした。

技術的側面

クハ5855形および5860形は、動力を持たない制御車両であり、制御装置や主電動機は搭載されていません。そのため、走行機器が不足しており、主に他の電動車両と連結して運行されます。台車は中古品が採用され、クハ5855形は東武鉄道から供給されたもので、5860形は高野山電気鉄道からの譲渡品を使用しているのが特徴です。

運用の歴史

1945年、西武鉄道が設立されるとクハ5855形と5860形は西武鉄道の一部として統合され、その際に車両番号が改番されました。1948年には、一斉に改番され、統一された形式に整理されました。この時期、連合軍専用車両としても活用されることがありました。

1950年代には、車両の構造改修が行われ、他形式との併結運用が増える中で、徐々に老朽化が進行しました。最終的に、1959年までに全車両が廃車となり、一部は地方私鉄に譲渡されました。

譲渡とその後

譲渡された車両の中には、電動車化されたものもありましたが、全てが廃車となり、現役の運用はありません。特に蒲原鉄道に譲渡されたクハ1233は電動車に改造され、三岐鉄道や一畑電気鉄道にも複数の車両が引き継がれましたが、廃車に至ったのが運命でした。

最終的に、クハ5855形の最後の生き残りは1976年まで在籍し、その後解体処分されました。これにより、西武鉄道の歴史の中で重要な役割を果たしたこの形式のサーガは幕を閉じ、旧型電車の全廃が達成されました。これらの車両は、武蔵野鉄道および西武鉄道の成り立ちや発展の過程を知るための貴重な資料となっています。

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