武蔵野鉄道デハ5560形電車

武蔵野鉄道デハ5560形電車の概要

武蔵野鉄道デハ5560形電車は、かつて西武鉄道の前身である武蔵野鉄道が新たに製造した電車です。この電車は1928年に登場し、開通を迎える二つの路線で運用されることができるよう設計されました。当時の日本における鉄道技術の進歩を代表する存在でもあり、特に観光誘致の観点からも重要視されました。

歴史的背景

1928年、武蔵野鉄道は飯能 - 吾野と西所沢 - 村山貯水池間における新路線開通を前に、12両のデハ5560形を製造しました。これにより、当時の旅行需要や観光ブームに応じた輸送能力向上が図られました。これらの車両は武蔵野鉄道にとって初の2扉クロスシート車であり、クロスシートは快適性を向上させるための重要な要素でした。また、この電車のデザインは「川造形」と呼ばれるスタイルを踏襲し、良い外観を持つことからも多くの乗客に支持されました。

車両の仕様

デハ5560形の車体は全鋼製で、全長は約17メートル、深い屋根と広い腰板部を持つデザインが特徴です。特に、初期の車両とは異なり、リベットではなく溶接を多用した設計により、耐久性が向上しています。運転台は全室式で、運転の効率性を高めるため、進行方向右側に制御器やブレーキ弁が配置されています。

また、側窓は大型であり、一段下降式で、重量性を考慮した設計がなされている点も特筆に値します。インテリアはデハとサハで違いがあり、デハはセミクロスシート、サハはオールクロスシート仕様です。それぞれ客室はビロード張りの豪華な仕上げとなっていました。

主な機器と技術的詳細

主電動機にはGE社製の電動機が用いられており、4基搭載されています。これは武蔵野鉄道における標準装備で、当時の電車において高い性能を発揮しました。制御装置は従来型から改良され、より簡素な構造ながらも安定した運行を支えました。ブレーキ装置も満足のいく性能を持ち、設計には最新の技術が取り入れられていました。

戦中から戦後の変遷

戦中の混雑により、デハ・サハ954組成の固定編成はその運用の見直しを余儀なくされ、クロスシートが撤去されるなどして、変化を迎えます。戦後には、武蔵野鉄道が西武鉄道へと変革を遂げる中で、全ての車両が改番され、本形式も新たな番号に変更されました。

この後も、車両は改造を重ね、機器の統一性が求められるようになりました。また、1954年には、人員の増加に対応するため2扉構造の問題が浮上し、系統の変化が必要となります。結果的に1955年には大規模な改造が施され、構造が3扉化されるなど、その姿は次第に変わっていきました。

晩年とその後

改造後は再び池袋線系統へ帰属しましたが、やがて老朽化が進行し、稼動頻度は低下しました。1958年には501系に置き換えられ、最終的に廃車となる運命を辿ります。その後、余剰車両の部品や設備は近江鉄道に譲渡されましたが、最終的な更新には至らず、再び処分された経過があります。

本形式の存在は、武蔵野鉄道における歴史的な遺産であり、また当時の技術革新の象徴でもありました。

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