武藤章 (建築家)

武藤章（むとう あきら、1931年 - 1985年）は、日本の建築家であり、教育者でした。

生涯と業績

武藤は、東京に生まれ、東京大学工学部建築学科を卒業後、建築家としてのキャリアをスタートさせました。初期には、株式会社新建創に勤務し、その後、工学院大学建築学科の天野太郎研究室で助手として教鞭を執りました。天野太郎は、武藤の建築家としての基礎を築いた重要な人物です。

1959年から1962年まで、武藤は有限会社天野太郎研究室の取締役を務め、新花屋敷ゴルフ場クラブハウスなどの設計に協力しました。この時期には、アメリカの建築視察を経て渡欧し、フィンランドのアトリエ・アルヴァ・アアルトで建築設計の研究を行いました。アルヴァ・アアルトは、武藤の建築観に大きな影響を与えた人物であり、武藤はアアルトに直接師事した唯一の日本人建築家として知られています。その後、ヨーロッパの建築を視察し、イタリアのジノ・ヴァッレ設計事務所にも所属しました。これらの経験は、武藤の建築スタイルを形成する上で重要な要素となりました。

1963年に武藤章研究室一級建築士事務所を設立し、独立しました。翌年には工学院大学助教授、1974年には教授に就任し、教育者としても多くの学生を指導しました。武藤は、住宅設計を中心に多くの優れた作品を手がけ、その作品は、自然との調和や機能性を重視したデザインが特徴です。

1985年に惜しまれつつもその生涯を閉じましたが、彼の作品と教育活動は、日本の建築界に大きな影響を与え続けています。

主な作品

武藤章は、住宅建築を中心に、公共施設や商業施設など、幅広い分野でその才能を発揮しました。以下に主な作品を挙げます。

館山国民休暇村の休憩所（1964年、千葉県）
三愛病院（1964年、東京都）
タテシナクラブ山荘（1965年、長野県）
戸倉スキー場レストハウス（1966年、長野県）
松が丘病院職員寮（1966年、東京都）
流動する空間への誘い（1967年、長野県）
尾瀬富士見小屋（1967年、群馬県）
一光ビル（1969年、東京都）
工学院大学白樺湖山の家（1969年、長野県）
美しが丘の家（1972年、神奈川県）
増沢ビル（1973年、東京都）
林田産業交通住宅（1973年、鹿児島県）
白鷺の家（1974年、東京都）
鈴木屋呉服店（1976年、埼玉県）
荻窪住まいの森モデルハウス（1976年、東京都）
松が丘自然病院（1977年、東京都）
タウンハウス上村（1978年、東京都）
工学院大学八王子図書館（1980年、東京都）
西狭山病院（1981年、埼玉県）
吉祥寺の家（1983年、東京都）
厚生年金会館東村山職員宿舎（1983年、東京都）
七里ケ浜の家（天野太郎邸）（1984年、神奈川県）
加藤マンション（1985年、東京都）

これらの作品は、武藤の建築に対する深い洞察と、自然環境との調和を重視する姿勢を反映しています。

著訳書・論文

武藤は、建築に関する著述活動も積極的に行いました。特にアルヴァ・アアルトに関する研究は、日本におけるアアルト研究の基礎を築いたと言えます。

SD選書『アルヴァ・アアルト』（武藤 章著、鹿島出版会）
訳書『ベネボロ：近代建築の歴史』上・下（武藤 章訳、鹿島出版会）
訳書『アルヴァ・アアルト：エッセイとスケッチ』（武藤 章訳、鹿島出版会刊）
論文『建築について』（『新建築』1958年1月号）
論文『形のない形』（『GA10 Alvar Aalto:La Maison Louis Carre』)

これらの著訳書や論文は、武藤の建築思想や研究成果を示す貴重な資料となっています。

研究室出身者と関連人物

武藤の研究室からは、多くの優れた建築家や研究者が輩出しました。

研究室出身者

南迫哲也（工学院大学名誉教授）
竺覚暁（金沢工業大学教授、金沢工業大学ライブラリーセンター館長、建築アーカイブス研究所館長）
初田亨（工学院大学教授）
安原治機（工学院大学教授）
戸沢正法（建築家）
十文字豊（建築家）
海谷寛（建築家）
宮井昭隆（建築家）

関連人物

アルヴァ・アールト（建築家）
天野太郎（東京芸術大学名誉教授）
吉原正（建築家）
藤島亥治郎（東京大学教授）
奥平耕造（東京工芸大学教授）

武藤章は、建築家としてだけでなく、教育者としても多大な貢献をし、その影響は今日にも及んでいます。

参考文献

住宅建築別冊・31『有機的構成へ　武藤 章作品集』（発行　建築資料研究社）

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