武藤鉦製薬

武藤鉦製薬株式会社は、1906年に初代武藤鉦八郎によって創業された、愛知県名古屋市に本社を置く製薬会社でした。主に一般用医薬品、特に家庭用入浴剤の製造に特化していました。資本金は2500万円で、2007年度の年間売上高は1億7600万円を記録していました。

主力商品「六一〇ハップ」

同社の主力商品として知られるのは、「六一〇ハップ（ムトウハップ）」です。硫黄を主成分とし、生石灰などの成分を含む液体入浴剤で、「家庭温泉」というキャッチフレーズで親しまれていました。業務用と個人用の2種類があり、特に個人向けには440グラム入り（小売価格450円前後）と1kg入り（同900円前後）のサイズが販売されていました。最盛期には年間50万本を売り上げ、テレビCMも放映されるほどの人気商品でした。

「六一〇ハップ」は、温泉の成分を参考に開発されたため、皮膚病に効果があるとされ、水虫には直接塗布することも推奨されていました。1927年から2008年までの81年間、製造販売され続けた長寿商品でしたが、その販売は思わぬ形で終焉を迎えることになります。

硫化水素自殺問題と操業停止

2007年頃から、「六一〇ハップ」を硫化水素ガス自殺に悪用する事例が急増しました。これを受け、薬局では購入者への用途確認を徹底するなどの対策が講じられましたが、悪用は後を絶ちませんでした。硫化水素ガスは、自殺者だけでなく、家族や救助者をも巻き込む深刻な社会問題となり、日本チェーンドラッグストア協会は、2008年5月に加盟店に対し販売自粛を要請しました。

その後、販売自粛は解除されたものの、販売不振は深刻化し、売上は通常の4割以下にまで落ち込みました。販売量回復の見込みが立たないことから、武藤鉦製薬は2008年10月に新川工場（愛知県清須市）の操業を停止しました。従業員の多くが退職し、会社は返品対応、在庫整理、顧客サポート、そして不動産管理へと事業の重点を移しました。

「六一〇ハップ」の販売終了後も、長年の愛用者からは製品を求める声が多数寄せられ、同社には入手困難となった顧客からの問い合わせが殺到したと言われています。80年以上にわたり親しまれた「六一〇ハップ」は、予期せぬ社会問題によって姿を消すこととなりました。

その他の製品

六一〇レモンハップ（ムトウレモンハップ）という粉末入浴剤も製造していました。医薬部外品で、レモンとゆずの香りの2種類がありました。こちらは2006年に製造中止となっています。

現在、武藤鉦製薬株式会社は、医薬品製造からは撤退し、不動産管理会社として事業を継続しています。

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