六一〇ハップ

六一〇ハップ：幻の薬用入浴剤

六一〇ハップは、2008年まで武藤鉦製薬が販売していた入浴剤です。医薬品として薬局やドラッグストアで販売されていました。

名称の由来

名前の由来は、考案者である初代武藤鉦八郎の名前から「六一〇」を、そして英語の「ハッピー(Happy)」から「ハップ」を取り、組み合わせて名付けられました。製品の瓶には「610HAP」と表記されています。

特徴

硫黄を主成分としており、お湯に溶かすと白濁し、硫黄の香りが広がるのが特徴です。まるで温泉に入っているかのような気分を味わうことができました。また、銀製品の変色防止や、銅製品の加工にも利用されていました。

一昔前の映画やテレビドラマでは、女優の入浴シーンでよく使用されていました。白濁効果で肌が透けにくく、美肌効果もあるため、女優にも好評だったようです。

歴史

六一〇ハップは、旧日本軍の衛生兵であった武藤鉦八郎によって考案され、1927年（昭和2年）に発売されました。

しかし、2007年頃から硫化水素ガスを発生させての自殺に使用される事例が多発し、社会問題となりました。そのため、2008年4月に販売自粛の措置がとられ、同年7月末に自粛要請は解除されたものの、販売の見通しが立たず、後継者不足などの事情も重なり、同年10月末に生産工場が閉鎖されました。

効能

六一〇ハップは、様々な効能・効果がありました。

入浴の場合：

あせも
しっしん
水虫
にきび
ただれ
あかぎれ
しもやけ
荒れ症
疥癬
いんきん
たむし
冷え症
神経痛
痔
リウマチ
腰痛
肩こり
うちみ
疲労回復
産前産後の冷え症
くじき
ひび

塗布の場合：

水虫
たむし
いんきん

湿布の場合：

神経痛
リウマチ

また、本来の用法ではありませんが、金属工芸家が金属の表面処理に利用していました。

成分

主な成分は以下の通りです。

硫黄 202.5g
生石灰 67.5g
カゼイン 0.12g
硫化カリウム 0.15g
常水 729.73g

これらの成分を加熱溶解し、濃縮・濾過したものが六一〇ハップでした。

注意事項

使用にあたっては、以下の点に注意が必要でした。

硫黄分が風呂釜や浴槽を傷める可能性があるため、材質を確認し、使用後は清掃する。
貴金属類は外して入浴する。
硫化水素ガスの発生を防ぐため、酸性の成分と混ざる可能性のある環境で使用しない。
幼児の手の届く場所に置かない。

参考文献

城山三郎著『創意に生きる―中京財界史』文藝春秋
和田由美、岩川亜矢共著『こだわりのロングセラー 紳士淑女方御用達』共同文化社

関連項目

武藤鉦製薬
温泉偽装問題

六一〇ハップは、残念ながら現在では製造されていませんが、その名残は今もなお、語り継がれています。

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