歯止め

短編小説『歯止め』

松本清張による短編小説『歯止め』は、1967年に『週刊朝日』で連載された作品で、同年に短編集「黒の様式」として出版されました。この物語は、家族の悲劇的な出来事や社会の暗い側面を探求し、読者に深い印象を残します。特に、登場人物たちの複雑な心理描写が評価されています。

あらすじ

物語は、津留江利子の姉である素芽子がエリートの旗島信雄と結婚した直後から始まります。素芽子は、トップクラスの成績を収めてT大学へ進学した優秀な人物でしたが、結婚した翌年には青酸カリを服用して自ら命を絶つという悲劇を迎えます。この事件が江利子に与える影響は深刻で、彼女は聞きかじった話や姉の死によって、旗島信雄を目撃すると異様な気分になってしまいます。

江利子の家庭は、次第に荒廃していきます。息子の恭太は大学受験を控える中で、暴力的な性格を露呈し、自室には不適切なものが散乱していました。彼の成績は急降下し、かつての姉のように優秀な学生になることは難しいと感じさせる状況です。このような家庭環境の中、江利子は思い悩みながらも親戚の結婚式に出席するため、田舎へ向かいます。

一方、結婚式の場で江利子は、周囲の不気味な男性の視線に気が付きます。それは川棚重三という男で、良夫からは彼の異常な性欲についての話を聞かされます。江利子は、家庭の崩壊や姉の最後の日々を思い起こしながら、過去の出来事と家族の苦しみに心を痛めるのです。

物語が進むにつれ、江利子は姉の死の背後にある事情や、旗島信雄とその義母との微妙な関係について更に調査を始めることになります。彼女の家族と旗島家の状況は次第に交錯し、暗い過去が浮き彫りになっていきます。

テレビドラマ化

『歯止め』はその後、1976年と1983年にテレビドラマとしても放送されました。1976年版は日本テレビ系列で放映され、全20回にわたり放送された「愛のサスペンス劇場」の一作品として、多くの視聴者に親しまれました。この版で演じられた津留江利子は岸田今日子、恭太は千葉裕がそれぞれ担当しました。

1983年版は、さらにドラマとしての人気を博し、視聴率は18.1%に達するなど高い評価を得ました。このバージョンでは、長山藍子が江利子を演じ、作品の魅力をさらに引き立てました。両作ともに、原作の持つ緊張感や心理描写を忠実に再現しています。

結論

『歯止め』は、松本清張独特の世界観が色濃く反映された短編小説です。人間関係のもつれや家庭の崩壊、そして人間の暗い心理が絡み合うこの作品は、読者に深い考察を促します。また、テレビドラマ化により、より多くの人々にその物語とテーマが伝わることとなりました。

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