歸國

戯曲『歸國』：戦後日本への問いかけ

『歸國』は、劇作家倉本聰による戯曲作品です。倉本聰自身の演出により、2009年に富良野GROUPによって初演され、その後も再演を重ね、2010年にはテレビドラマとしてもTBS系で放送されました。この作品は、棟田博の短編小説『サイパンから来た列車』から着想を得ており、50年以上の歳月をかけて構想された、倉本聰にとって非常に重要な作品の一つです。

戦死した英霊たちの帰還

物語は、太平洋戦争中に南の島々で戦死した英霊たちが、60年以上を経て現代の日本に帰還するところから始まります。彼らの使命は、故国の現状を、今もなお海の底で眠る戦友たちに伝えること。夜明けまでの短い時間の中で、彼らは高度経済成長を遂げ、物にあふれる現代日本の姿と向き合うことになります。

この作品は、英霊たちの視点を通して、現代日本のあり方、そして「日本はこれで幸せなのか？」という根源的な問いかけを投げかけています。高度な技術や経済発展の裏側にある、社会の歪みや心の貧しさといった問題点を浮き彫りにし、現代社会に生きる私たちに深い省察を促す力強いメッセージが込められています。

旧字体「歸國」の意図

作品タイトルに旧字体である「歸國」が使われているのは、単なる演出効果ではありません。60年以上前に戦死した若者たちにとって、「故国に帰る」という行為は、現代の「帰国」とは異なる、より深い意味を持つものだったという倉本聰の考えが反映されています。旧字体を用いることで、時代を超越した重みと、英霊たちの故郷への切実な思いがより鮮やかに表現されています。

舞台とテレビドラマ

『歸國』は舞台作品として、富良野演劇工場を拠点に、2009年から2011年にかけて3年連続で上演されました。全国ツアーも実施され、沖縄での公演も行われるなど、多くの人々に感動を与えました。舞台公演では、倉本聰の演出方針「再演は続演に非ず」に基づき、公演を重ねるごとに台詞や演出に修正が加えられ、作品は常に進化し続けていました。

2010年には、倉本聰が31年ぶりにTBSドラマの脚本を手掛け、テレビドラマ版が「終戦ドラマスペシャル」として放送されました。舞台版とテレビドラマ版では、登場人物の関係性やストーリーの細部などに違いがありますが、いずれも現代日本への深い洞察と、戦争の悲劇を二度と繰り返してはならないという強いメッセージが込められています。テレビドラマ版では、日本のテレビドラマ史上初めて靖国神社でのロケが行われたことも話題となりました。

登場人物とストーリー

物語には、様々な境遇の英霊たちが登場します。沖縄戦で戦死した兵士、美術学生、野球部員、工場労働者など、それぞれの背景や人生を丁寧に描かれ、彼らの言葉や行動を通して、戦争の残酷さと、平和な時代の矛盾が浮き彫りになります。

現代日本の登場人物も重要な役割を果たしており、戦後の日本の発展を象徴する人物や、その一方で戦争の傷跡を今も抱える人々、そして新しい世代の人々など、多様な登場人物たちが織りなす人間ドラマは、観る者の心に深く刻まれるでしょう。

『北の国から』との共通点

『歸國』は、倉本聰の代表作である『北の国から』に通じるテーマを持っています。それは、時代や社会の変化の中で、人間がどう生きるべきか、そして真の幸せとは何かという問いかけです。黒板五郎の生き方にも見られる、自然への愛、人との繋がりを大切にする姿勢は、『歸國』においても重要な要素となっています。

作品の影響

『歸國』は、舞台、テレビドラマを通じて、多くの視聴者や観客に深い感銘を与えました。現代社会の問題点を浮き彫りにし、戦争の悲劇を繰り返さないためのメッセージを伝えるこの作品は、これからも多くの人々に考えさせ、そして感動を与え続けることでしょう。

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