死の猟犬

死の猟犬とは

『死の猟犬』（原題：The Hound of Death and Other Stories）は、アガサ・クリスティによって1933年に発表された短編小説集です。本書は、全12編からなる作品が収められていますが、その中で唯一の推理小説があの『検察側の証人』です。その他の作品は心霊現象やホラーをテーマにした物語が展開されており、クリスティの独特な視点が光る内容となっています。初めて日本語に翻訳されたのは1966年で、創元推理文庫から出版されました。

収録作品の概要

本書では、個々の作品が持つ独自のテーマやアイデアが特徴的です。以下に代表的な短編の概要を紹介します。

死の猟犬

第一次世界大戦中のベルギーで、修道女が引き起こしたという怪奇現象の背後には何があるのでしょうか。戦争の悲劇と神秘的な力を持つ彼女との出会いが、周囲の人々に与える影響が描かれています。彼女が見続ける幻覚と恐怖の中で浮かび上がる「死の猟犬」の存在は、物語の中核を成しています。

赤信号

晩餐会での直感に関する話から展開されるこの短編では、ダーモットと呼ばれる参加者が持つ警告の感覚が事件に結びついていきます。不安を抱える中で霊媒師の忠告が的中し、彼の危機感が現実になる様が緊迫感を伝えます。

第四の男

サスペンスとミステリーが絡み合うこの物語では、聖職者が乗り込んだ電車で出会った男が、突然笑い出すという不気味な瞬間から始まります。彼が語る少女の死に至る真相は、読者を引き込む力強い要素となっています。

ジプシー

自身がジプシーを恐れる理由を語る友人の体験から、この短編は始まります。夢の中での出会いと現実での忠告が連動し、最終的には取り返しのつかない結果を招く様子は、運命の不思議さを感じさせます。

ランプ

貸家を訪ねた女性が幽霊の噂を耳にしつつも、子供の声にとらわれていく様子は、恐怖を煽るストーリーテリングの真髄を示しています。

ラジオ

亡き夫の声が聞こえるラジオの存在が、ハーター夫人にどんな影響を及ぼすのか。精神的な気晴らしがもたらす恐怖の要素が絡み合い、物語は深みを増していきます。

検察側の証人

衝撃の法廷劇を描いたこの作品では、弁護士が無実を証明しようとする中で、証言がひっくり返る展開が待ち受けています。観客の予想を裏切るストーリーが、クリスティ独特のサプライズを提供します。

映像化

本書のいくつかのストーリーは、1982年に放送されたミニシリーズ『アガサ・クリスティー・アワー』で映像化されました。このシリーズでは、さまざまなエピソードが魅力的な演出で描かれており、視聴者に新たな楽しみを提供しています。

結論

『死の猟犬』は、アガサ・クリスティの作品の中でも特に魅力的な短編小説集として、多くの読者に親しまれています。ホラーやサスペンスの要素を巧みに織り交ぜたこれらの物語は、彼女の名手ぶりを証明していると言えるでしょう。

もう一度検索