死線からの脱出

死線からの脱出

1986年に製作されたアメリカとフィンランドの合作映画、それが『死線からの脱出』（原題：Born American）である。フィンランド語タイトルはJäätävä polte、イギリスでの公開時にはArctic Heatというタイトルも使用された。本作は、後に『ダイ・ハード2』や『クリフハンガー』といった大作アクション映画を手掛けることになるレニー・ハーリンにとって、記念すべき長編監督デビュー作となった。

主演を務めたのは、高名なアクションスター、チャック・ノリスの長男マイク・ノリスである。彼は主人公として、父親を彷彿とさせる迫力あるアクションを披露し、観客を引き込む。日本では劇場公開が見送られ、代わりにビデオソフトとしてリリースされた際に『レッド・プリズン/死線からの脱出』という邦題が付けられた。

あらすじ

物語は、フィンランドへ休暇旅行に訪れた3人の楽天的なアメリカ人学生、サヴォイ、ミッチ、そしてK.C.を中心に展開する。彼らは旅の途中で、若気の至りともいうべき軽い気持ちから、ソビエト連邦の国境を越えて不法にソ連領土内へ足を踏み入れてしまう。この無謀な行動が原因で、彼らはほどなくソ連当局に発見され、身柄を拘束されてしまう。

厳重な警備が敷かれた過酷な強制収容所に送られた3人は、そこで絶望的な現実を突きつけられる。しかし、その中で彼らは個性的な人物たちと関わりを持つようになる。一人は、かつてアメリカのCIAのスパイであったと自称する、謎めいた風格を持つ老齢の男、通称「提督」。もう一人は、自由を求めて西側への亡命を強く願う、若い女性ナディアだ。閉鎖された環境の中で、学生たちは提督やナディアとの出会いを経て、現状からの脱却を決意する。彼らは共に、鉄壁と思われた収容所からの脱獄、さらにはソビエトからの決死の脱出計画を実行に移すことになる。友情と裏切り、そしてサバイバルが描かれる緊迫した展開が続く。

主要キャスト

サヴォイ：マイク・ノリス
ミッチ：スティーヴ・ダーラム
K.C.：デイヴィッド・コバーン
提督：タルマス・ラスラーラ
密使：アルバート・サルミ
ナディア：ピータ・ヴオサルミ

製作背景と特記事項

本作にはいくつかの興味深い製作背景や特記事項がある。

企画当初、主演としてサヴォイ役を演じるのはマイク・ノリスではなく、彼の父であるチャック・ノリスが予定されていたという。しかし、他のプロジェクトとの兼ね合いや撮影スケジュールの調整が難航した結果、チャック・ノリスは本作への出演を断念したとされている。これにより、息子であるマイク・ノリスが主演という大役を担うことになった。

また、本作が製作された当時、フィンランド映画界において極めて大きな注目を集めた理由の一つに、その製作費の規模が挙げられる。本作は、当時のフィンランド映画史上、最大規模の製作費が投じられた意欲的な大作であった。

しかし、公開当時、本作は政治的な要因から予期せぬ困難に直面した。舞台がソビエト連邦であり、ソ連の体制を描写している内容が、冷戦下にあった当時の国際情勢に影響を与えたのである。特に、フィンランドはソビエト連邦と国境を接しており、両国の関係はデリケートなものだった。フィンランド政府当局は、本作の上映がソビエト連邦との関係悪化を招くことを懸念し、結果としてフィンランド国内での事実上の上映禁止措置が取られるという、異例の事態となった。

さらに、映画を注意深く観ると気づくかもしれないトリビアとして、映画冒頭に流れる主人公たちが乗る客船の船内アナウンスの声がある。この声は、クレジットに名前は載っていないものの、本作の監督であるレニー・ハーリン自身が担当しているとされている。

『死線からの脱出』は、レニー・ハーリンのキャリアの原点として、そして冷戦下の政治状況に翻弄された一本として、記憶されるべきアクションスリラー映画である。

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