殺しの双曲線

西村京太郎が1971年に発表した長編推理小説『殺しの双曲線』は、双生児の入れ替わりトリックと、外部から遮断された状況下で起こる連続殺人事件を軸に展開する、本格ミステリーの傑作として知られています。作者自身も綾辻行人との対談で、自身のベスト5作品の2番目に本作を選出するほど、思い入れのある作品です。

概要と解説

本作は、アガサ・クリスティの代表作『そして誰もいなくなった』のプロットに着想を得ており、東京で発生した連続強盗事件と、雪深い山荘で繰り広げられる連続殺人事件という、二つの事件が並行して描かれる構成が特徴です。

推理小説における「ノックスの十戒」の第10条には、「双生児による身代わりトリックは、事前に読者に告知しなければアンフェアである」というルールが存在します。作者は、このルールに則り、読者に対してフェアであることを期すため、物語の冒頭で「この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです」と明記し、主要なトリックを事前に開示しています。

あらすじ

東京では、犯人が素顔を晒し、「世間が悪いんだ」という捨て台詞を残していく連続強盗事件が発生していました。被害者たちの証言から、犯人が小柴兄弟のどちらかであることは判明しましたが、二人は一卵性双生児であるため、どちらが犯人かを特定できずに捜査は難航していました。

一方、タイピストの戸部京子は、婚約者の森口克郎と共に、宮城県K町のホテル「観雪荘」からの招待を受け、スキーを楽しむために雪深い山荘を訪れます。そこで、風俗嬢の太地亜矢子、サラリーマンの矢部一郎、犯罪学の研究をしている大学院生の五十嵐哲也、タクシー運転手の田島信夫という、同じく東京から招待された4人の客と出会い、ホテルの主人である早川に出迎えられます。

しかし、到着早々、招待客の一人である矢部が、内側から鍵のかかった部屋で首を吊って死亡しているのが発見されます。自殺と思われましたが、壁には「かくて第一の復讐が行われた」というメッセージと、奇妙なマークが描かれたカードが画鋲で留められていました。さらに、外部との連絡手段である電話線が切断され、唯一の交通手段である雪上車も何者かによって破壊されていました。また、ボウリング場のピンが1本なくなっていました。

田島がスキーでK町まで連絡に向かうことになりますが、翌朝、宿泊客全員のスキー板が何者かによって折られてしまいます。その後のニュースで、田島はタクシー強盗殺人犯であり、本物の田島になりすましていた偽物であることが判明します。偽田島は、外部への連絡を阻止するために雪上車とスキーを破壊したのでした。隠し持っていたスキーで逃走を試みますが、コンパスが狂っていたために方向を誤り、崖から転落して死亡します。事故死と思われましたが、彼の部屋には「かくて第二の復讐が行われた」というメッセージと、矢部の時と同じマークが描かれたカードが残されていました。そして、ボウリングのピンもさらに1本減っていました。

一方、連続強盗事件の捜査本部には、双生児による強盗計画を詳細に記した手紙が届けられていました。2通目の手紙にはR銀行襲撃計画が記されており、捜査の結果、小柴兄弟が計画通りに行動していることが判明します。捜査本部はR銀行の襲撃を待ち構えることになります。

観雪荘ではその後も、森口が棚から落ちてきた道具箱が頭に当たり死亡し、五十嵐がナイフで刺殺されるという事件が続きます。それぞれの事件現場には、以前の2件と同様にカードが残され、ボウリングのピンも減っていました。五十嵐の遺体を3人の「雪の墓」の隣に埋葬した後、早川は駅前の食堂からの電話で警察に通報を依頼します。しかし、雪崩の影響で自衛隊の協力を得ても、警察が観雪荘に到着するには2日以上かかる見込みでした。電話も再び不通となり、なぜ一時的につながったのかは不明でした。

観雪荘の事件や、K町に警察や新聞記者、家族が集まっているというニュースを見た京子たちは、安堵しますが、束の間のことでした。早川がダイニングキッチンで血まみれで倒れているのを発見されます。京子と亜矢子は、互いに相手が連続殺人犯ではないかと疑心暗鬼になります。京子は、自分が殺された後に警察に読んでもらうために、これまでに起きたことを手紙に書き残します。

一方、都内ではR銀行強盗の現行犯で小柴兄弟の弟である利男が逮捕されました。利男は、何者かが双生児であることを利用した連続強盗の犯行計画を送ってきて、兄弟を唆し、兄の勝男と交互に犯行を行っていたと供述します。

ついに観雪荘に到着した地元警察と新聞記者、家族の一行がホテルに突入すると、「私が間違っていました」という書き置きを残して、亜矢子が毒を飲んで死亡しているのが発見されます。ホテルの裏には、6つの雪の墓が建てられており、墓標のようにそれぞれの墓にボウリングのピンが突き刺さっていました。墓を掘り返すと、5人の男性の遺体は全て顔が無残に叩き潰されていました。ただし、京子の顔だけは無傷でした。これらの状況と京子が残した手紙から、亜矢子が犯人であると思われました。

しかしその後、連続強盗事件の捜査本部に東京中央郵便局の消印で、「かくて全ての復讐が行われた」というメッセージと、例のマークが描かれたカードが届けられます。カードの投函日は亜矢子の死亡後でした。

もう一度検索