殺し屋人別帳

殺し屋人別帳：スタイリッシュな暴力と裏切りの物語

1970年、東映が贈る『殺し屋人別帳』は、渡瀬恒彦の鮮烈な映画デビュー作であり、初主演映画としても名高い作品です。監督は、独特の演出センスで知られる石井輝男。ヤクザ抗争という重厚なテーマを、モダンアクションのテイストでスタイリッシュに描ききっています。

本作は、「人別帳シリーズ」の第一作目として企画されました。渡瀬恒彦が演じる主人公、橘真一という名は、高倉健主演の『網走番外地シリーズ』の主人公と同じ名前であるという興味深い設定も持ち合わせています。

物語は、裏切りから始まります。北九州を制圧しようと企む浦波興業の浦波は、黒岩と宇野木という二人の殺し屋に各組の組長暗殺を依頼します。しかし、目的を果たした黒岩は、浦波を裏切り殺害。そして宇野木をも葬り去り、黒岩組を結成、勢力を拡大していきます。

黒岩組は、次に竜神一家を潰すべく、勢力を長崎へと伸ばそうとします。この抗争に巻き込まれるようにして、主人公・橘真一をはじめ、ラバウルの鉄、八人殺しの鬼寅といった、個性豊かな殺し屋たちが集結します。

それぞれの殺し屋は、冷酷で狂暴な者、紳士然とした振る舞いをする者、どんな状況でも決して負けない不敵な者、そして女性には弱いなど、様々なキャラクター性を持ち合わせています。彼らは、それぞれの得意技と残忍な殺し方を披露し、観客をスリリングな世界へと引き込みます。

映画の後半は、『網走番外地 望郷篇|網走番外地_望郷篇』を思わせる展開となり、クライマックスでは手に汗握る壮絶な殺し合いが繰り広げられます。それぞれの殺し屋たちの技量と、裏切りと復讐が複雑に絡み合い、息もつかせぬ展開が続きます。

キャストは、渡瀬恒彦の他に、吉田輝雄、藤田佳子、太田ナオミ、小川ローザといった豪華な顔ぶれ。脇を固める俳優陣も個性的で、物語に深みを与えています。特に、嵐寛寿郎、佐藤允といったベテラン俳優の演技にも注目です。

『殺し屋人別帳』は、単なるヤクザ映画の枠を超えた、スタイリッシュで暴力的なエンターテイメント作品です。渡瀬恒彦という新星を世に送り出しただけでなく、石井輝男監督の演出力、そして個性豊かな登場人物たちが織りなすドラマは、現代においても多くの観客を魅了し続けるでしょう。

当時の東映は、鶴田浩二、高倉健、千葉真一といった大スターを擁する男性スターシステムが確立していました。そんな中、渡瀬恒彦を新たなスターにしようと、東映企画製作本部長の岡田茂は、渡瀬の線の太いマスクに惚れ込み、抜擢しました。

『殺し屋人別帳』は、渡瀬恒彦をスターダムにのし上げるための「人別帳シリーズ」の第一弾として、1970年1月に公開されました。続く『監獄人別帳』、そして企画段階で制作中止となった『悪党人別帳』と、立て続けに主演作を制作するという、新人スター育成のための大胆な戦略がとられました。

監督には、石井輝男が抜擢されています。彼の才能が、本作の成功に大きく貢献したことは言うまでもありません。

本作で渡瀬恒彦と共演した荒木一郎は、撮影当時を振り返り、人気が出るにつれて渡瀬の呼び方が変わっていったというエピソードを語っています。これも、渡瀬のスターへの道を示す興味深い逸話と言えるでしょう。

『殺し屋人別帳』は、渡瀬恒彦の鮮烈なデビューと、東映の意欲的なスター育成戦略、そして石井輝男監督の演出力が見事に融合した、日本の映画史に残る傑作と言えるでしょう。

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