毒物劇物取扱責任者

毒物劇物取扱責任者（どくぶつげきぶつとりあつかいせきにんしゃ）

概要

毒物劇物取扱責任者とは、毒物及び劇物取締法（昭和25年法律第303号）の定めに基づき、毒物や劇物を製造、輸入、販売する事業者、または特定の事業でこれらを扱う事業者に設置が義務付けられている専門家です。その主な役割は、毒物や劇物による人々の健康や環境への危害を未然に防ぐことです。事業所における安全管理体制の中核を担い、法令遵守の徹底や従業員への指導・教育を行います。

設置義務と対象事業所

毒物劇物取扱責任者を置くことが義務付けられているのは、主に以下の事業者です。

毒物劇物営業者: 毒物や劇物の製造業、輸入業、または販売業を行う者として、都道府県知事等の登録を受けた事業者を指します（法第7条）。販売業には「一般販売業」「農業用品目販売業」「特定品目販売業」の区分があり（法第4条の2）、責任者に求められる資格要件が一部異なります（法第8条第4項）。
要届出業務上取扱者: 政令で定められた特定の事業のために特定の毒物や劇物を取り扱う事業者を指します（法第22条第1項）。具体的には、電気めっき、金属熱処理、大量運送、しろあり防除の4事業において、シアン化ナトリウム（青酸ナトリウム）などを取り扱う場合がこれに該当します（施行令第41条、第42条）。

これらの事業者は、毒物劇物を取り扱うそれぞれの施設（製造所、営業所、店舗など）ごとに責任者を配置し、管轄の行政機関に届け出る必要があります。責任者は、その施設の業務の性質上、原則としてその場所に常時勤務し、毒物劇物の管理に必要な適切な権限を持つ者でなければなりません。ただし、上記の営業者や取扱者に該当せず、毒物劇物を単に業務上取り扱うだけであれば、毒物劇物取扱責任者の設置義務はありません（法第22条第5項）。

主な業務内容

毒物劇物取扱責任者の具体的な業務内容は、法令上は「毒物又は劇物による保健衛生上の危害の防止」と抽象的に定められています（法第7条1項）。しかし、厚生省薬務局長から各都道府県知事あてに出された通知「毒物劇物取扱責任者の業務について」（昭和50年7月31日薬発第668号）によって、より詳細な業務が例示されています。これには、責任者自身が直接すべての業務を行う必要はなく、その指揮監督のもとで管理することが含まれます。

例示される具体的な業務には、以下のようなものがあります。

毒物劇物の製造、貯蔵、陳列、運搬に関する設備が基準を満たしているかの確認・管理（施行規則第4条の4）
毒物劇物の容器や包装への適切な表示や着色が行われているかの点検（法第3条の2第9項、第12条、第13条、第13条の2）
毒物劇物の紛失や漏洩を防ぐための措置（鍵のかかる場所に保管するなど）が適切に行われているかの確認（法第11条）
毒物劇物の運搬や廃棄が定められた技術基準に従っているかの点検（施行令第40条から第40条の7）
事故が発生した場合の応急措置に必要な設備や資材の管理、関係機関への連絡、原因究明と再発防止策の策定
毒物劇物の安全な取り扱いに関する従業員への教育訓練の実施
毒物劇物の入出庫や管理状況に関する業務日誌の作成と管理

毒物劇物取扱責任者となる資格

毒物劇物取扱責任者になるには、以下のいずれかの資格要件を満たし、かつ後述の欠格事項に該当しない必要があります（法第8条第1項）。資格に直接対応する免許証や資格証というものは存在せず、責任者として届け出る際に、以下のいずれかの資格を有することを証明する書類（薬剤師免許証、卒業証明書、試験合格証書など）を提出することになります。

1. 薬剤師の免許を有している者。
2. 厚生労働省令で定める学校で、応用化学に関する学課を修了した者。
3. 毒物劇物取扱者試験に合格した者。

欠格事項

上記の資格を有していても、以下のいずれかに該当する場合は毒物劇物取扱責任者になることができません（法第8条第2項）。

18歳未満である者
心身の障害により業務を適正に行うことが困難であると厚生労働省令で定める者
麻薬、大麻、アヘン、覚せい剤などの中毒者
毒物若しくは劇物、または薬事に関する罪を犯し、罰金以上の刑を受け、刑の執行終了等から3年を経過していない者

応用化学に関する学課を修了した者について

「応用化学に関する学課」とは、学校教育法に基づく大学、高等専門学校、専門学校、高等学校、大学院などの教育機関において、薬学、理学、工学、農学などの分野で応用化学に関連する課程を修了し、所定の化学関連科目を一定単位数以上修得している場合などを指します。例えば、大学の薬学部、理学部化学科、工学部応用化学科、農学部農業化学科などで、特定の化学科目を修得している者が該当します。具体的な要件は厚生労働省令で詳細に定められています。

毒物劇物取扱者試験

毒物劇物取扱者試験は、各都道府県が年に1回程度実施しています。近年では、複数の都道府県が共同で同じ日に同じ問題を使用して試験を実施するケースも見られます。この試験に合格することが、毒物劇物取扱責任者となるための一般的なルートの一つです。

試験区分

試験にはいくつかの区分があります（施行規則附則第3項）。

一般毒物劇物取扱者試験: すべての毒物劇物を取り扱うための資格。
農業用品目毒物劇物取扱者試験: 農業分野で使用される特定の毒物劇物のみを取り扱うための資格。
特定品目毒物劇物取扱者試験: さらに限定された特定の品目（内燃機関用メタノールなど）を取り扱うための資格。

試験科目

試験科目は、主に筆記試験と実地試験に分かれます。多くの都道府県では、実地試験についても「実地に関する筆記試験」として実施されています。

筆記試験: 毒物及び劇物取締法規、基礎化学、毒物・劇物の性質、取扱い・貯蔵に関する知識などが問われます。
実地試験: 毒物劇物の取扱い方法や識別方法に関する知識が問われます。

受験資格

この試験は、学歴、年齢、実務経験などの制限なく、誰でも受験することが可能です。ただし、前述の欠格事項に該当する者が試験に合格しても、その欠格事項が解消されない限り、実際に毒物劇物取扱責任者として選任されることはできません。

まとめ

毒物劇物取扱責任者は、社会の安全を守る上で欠かせない存在です。その業務は多岐にわたり、専門的な知識と責任感が求められます。資格取得には複数のルートがあり、広く門戸が開かれていますが、その責務の重さから、適格性の確認として欠格事項が設けられています。事業所における毒物劇物の適切な管理は、彼らの働きにかかっています。

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