比田井南谷

比田井南谷：書道史に輝く独自の軌跡

比田井南谷（ひだいなんこく、1912年-1999年）は、20世紀を代表する日本の書家です。書家・比田井天来を父に持ち、その血筋を受け継ぎながらも、独自の境地を開拓した彼の生涯と作品は、日本の書道史に新たな一章を刻みました。

天来の系譜と書学院

神奈川県鎌倉市に生まれた南谷は、幼少期から父・天来のもとで書法を学びました。天来没後は、書道研究機関である「書学院」を継承。書道資料や図書の管理・運営に尽力し、出版部の再開にも携わるなど、書道文化の継承に大きく貢献しました。

書学院長としての役割に加え、毎日書道展名誉会員、書宗院顧問、独立書入団客員など、数々の要職を歴任。その活動は国内にとどまらず、プリンストン大学、オックスフォード大学など、約20もの大学で書道史を講演するなど、国際的にも高く評価されました。

現代への挑戦：心線作品

昭和20年（1945年）、南谷は古文を基に抽象的な書表現の実験を開始します。この試みは「心線作品」と名付けられ、従来の書道の概念を覆す前衛的な表現として注目を集めました。昭和21年（1946年）には、現代美術協会展に出品され、新たな書表現の可能性を示しました。

国際的な活躍と後世への影響

昭和34年（1959年）から昭和36年（1961年）にかけては、サンフランシスコのルドルフ・シェーファー図案学校に招かれ、渡米。同校と自身の工房で書法と書道史を教え、アメリカでの書道普及にも貢献しました。東京を始め、ニューヨーク、サンフランシスコ、ワシントン、メルボルンなど、国内外で14回もの個展を開催するなど、精力的に活動しました。

昭和47年（1972年）には、父・天来の生誕100年展を開催。昭和49年（1974年）から昭和50年（1975年）にかけては、天来の生誕地である長野県に建設された「天来記念館」の設立にも協力しました。

書道史研究者としての貢献

南谷の活動は、書家としての活動にとどまりません。昭和62年（1987年）には『中国書道史事典』を著し、書道史研究者としての側面も示しました。この著作は、書道史研究において重要な文献として、現在も高く評価されています。

書と人生

比田井南谷は、伝統を継承しながらも、常に現代への挑戦を続けました。その活動は、書道の枠を超え、芸術、文化、教育など多様な分野に影響を与え、後世の書家や研究者に大きな刺激を与え続けています。天来の息子としてだけでなく、独自の視点と技術で書の世界に貢献した彼の功績は、今後も高く評価され続けるでしょう。

主な著書

『顔勤礼碑』（書道技法講座）
『臨平復帖・他』（古碑帖臨書精選）
『現代書』全3巻（共編）
『書道基本名品集』全20巻（編）
『中国書道史事典』

参考文献

比田井南谷 『中国書道史事典』普及版（天来書院、発行者・比田井和子、2008年8月）ISBN 978-4-88715-207-6
飯島春敬ほか 『書道辞典』（東京堂出版、1975年4月）
『書に遊ぶ』4号（クリエイティブアートとまと、2001年1月）
* 『比田井南谷』（東京画廊+BTAP、2012年4月）

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