毛利良一

毛利 良一

1949年10月31日、兵庫県神戸市長田区に生まれた毛利良一は、日本のオートバイロードレース界で一時代を築いた元選手です。身長170cm。特に1977年には、当時最高峰クラスの一つであった全日本ロードレース選手権750ccクラスにおいて、シリーズチャンピオンを獲得する輝かしい功績を残しました。

レーシングキャリアの始まり

毛利氏がオートバイレースの世界に足を踏み入れたのは10代の頃。地元の神戸・六甲山の山道を走ることからその技術を磨き始めました。やがて、当時の有力レーサーであった片山義美氏が率いる「神戸木の実レーシング」に所属。ここには、後に世界の舞台でも活躍する片山敬済氏や江崎正氏といった面々もおり、共に切磋琢磨しました。1968年、18歳で初めて実戦となる10時間耐久レースに挑みましたが、残念ながらリタイヤに終わります。この時の悔しい経験が、彼をさらに技術向上へと駆り立てました。特に六甲の山道でのトレーニングに一層励んだことは、後にサーキットでのパフォーマンス向上に大きく貢献したと振り返っています。

全日本選手権での躍進

本格的に全日本ロードレース選手権に参戦し始めた毛利氏は、その才能を開花させます。1972年には、ジュニア250ccクラスでシリーズチャンピオンを獲得。この頃のインタビューでは、師と仰ぐ片山義美氏を尊敬する人物として挙げ、「一流のレーサーであると共に、人間的にも優れた恩師」と語っています。翌1973年は、エキスパートジュニア125ccクラスにヤマハのTA125を駆り参戦。全6戦中5勝という圧倒的な強さで、二度目のチャンピオンに輝きました。同年はより大排気量の750ccクラスにも挑戦し、最終戦の日本GPでは、優勝したチームメイトの片山敬済氏と共に3位表彰台を獲得するなど、その順応性の高さを示しました。

その後も125cc、350ccクラスを中心に参戦を続けましたが、1976年からは350ccクラスに専念。ヤマハの主力ライダーとして、750ccや500ccといったビッグマシンから小排気量車までを巧みに操るオールラウンドなライダーとして活躍の場を広げます。1976年からは金谷秀夫氏率いるチーム・カナヤに移籍しますが、引き続きヤマハ陣営の中心選手として、多くのクラスでトップ争いを演じました。

そして、毛利氏のキャリア最大のハイライトとなるのが1977年です。この年、セニア（現在の国際A級に相当）750ccクラスにおいて、見事シリーズチャンピオンの栄冠を掴み取りました。

思考するレーサー

毛利氏は、自身のライディングスタイルやレースへの取り組み方について、独特の哲学を持っていました。彼は、「一つのコーナーを徹底的に走り込み、限界まで攻めることでタイムは向上する」と語り、細部の追求が速さに繋がると考えていました。また、多くの参加者が僅差で争う350ccクラスの面白さに言及しつつも、トップ争いをしている時でも「余裕を残しておきたい」と、冷静さを保つことの重要性を語っています。

彼のレース運びは、感覚だけではなく、徹底した思考に基づいています。記者から「しぶといレースぶり」の秘訣を問われた際には、「私は速いノービスではなかったから、遅い人の気持ちや苦労がよくわかる。重要なのは、走りながら常に深く考えることだ」と答えました。タイヤの限界点や、アクセルを開け始める最適なタイミングなどを、常に意識しながら走行。特にレース終盤になると、「どこで勝負を仕掛けるか、常に考え続けている」と言います。1977年の鈴鹿BIG2&4での逆転勝利を例に挙げ、「最後にはここで前に出られるという計算があった」と語る彼の言葉からは、緻密な戦略家としての側面がうかがえます。和田正宏選手や阿部孝夫選手といった強豪ライバルたちを破り総合優勝を飾るなど、その頭脳的なレース運びは多くのファンを魅了しました。

キャリアの終盤と引退後

毛利氏は1983年まで全日本ロードレース選手権にフル参戦しました。この年、第7戦ではポールポジションからスタートし1位でチェッカーを受けましたが、レース後の車検で排気サイレンサーの脱落が確認され、残念ながらレギュレーション違反により失格となっています。

現役引退後は、オートバイ業界から完全に離れることなく、一般のライダー向けサーキット走行会で講師を務めるなど、後進の指導やライディングスキルの普及に貢献しました。また、兵庫県芦屋市でフランス料理レストランを経営するなど、ビジネスの世界でも新たな才能を発揮しました。

全日本ロードレース選手権で三度のチャンピオンに輝き、多クラスで活躍した毛利良一氏は、その確かな技術と、常に「考える」ことを怠らない独自のレース哲学をもって、日本のロードレース史にその名を刻んでいます。

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