民主主義科学者協会

民主主義科学者協会（民科）とは

民主主義科学者協会（みんしゅしゅぎかがくしゃきょうかい）は、戦後間もない1946年に設立された、マルクス主義を基盤とする研究者団体です。略称は「民科（みんか）」と呼ばれていました。設立当初は、「民主主義科学」や「国民的科学」の発展を目標に掲げ、さまざまな分野の研究者や学生、市民が参加し、大きな影響力を持っていました。

設立と発展

1946年1月12日に創立され、初代会長には数学者の小倉金之助、事務局長には科学史家の今野武雄が就任しました。創立時の会員数は180名でしたが、最盛期には114の地方支部、1772名の専門会員、8243名の普通会員を擁する巨大な組織に成長しました。米軍占領下の日本において、学会や言論界に大きな影響力を持つ存在でした。

民科は、マルクス主義を共通の思想基盤としていましたが、当初は日本共産党の政治的指導は緩やかでした。機関紙として『民主主義科学』、『科学者』などを発行し、宗教、哲学、歴史、水産、経済、農業、教育、心理、言語科学、法律、政治、婦人問題、芸術、生物学、地学など幅広い分野で研究活動を行っていました。

解体への過程

1950年代に入ると、日本共産党の影響力が強まり、民科内部に政治的な対立が持ち込まれるようになります。1952年には「国民的科学の創造」が提唱され、政治と科学の結合を重視する運動へと路線が変化しました。この変化は、共産党と無縁な学者や学生の離反を招くことになります。

さらに、1955年の共産党の路線転換や、1956年のスターリン批判によるミチューリン農法の否定は、民科の求心力を大きく低下させました。科学者や研究者からの支持を失い、指導部の混乱も重なり、多くの部会が解体。1956年の第11回全国大会を最後に本部としての運営は事実上崩壊し、翌年には本部事務所を閉鎖し、事務局も解散しました。

民科の弱体化・解体の背景には、財政問題も指摘されています。

各部会の活動継続と転換

民科本部が解散した後も、一部の部会は独立した研究団体として活動を継続しています。現在も「民主主義科学協会」または「民科」の名前を残して活動しているのは、「法律部会」と「歴史部会」のみです。また、その他の部会も名称や組織形態を変えながら、学会や研究会として活動を続けています。

民科京都支部歴史部会：京都民科歴史部会として、歴史科学協議会の地域組織として活動。
科学史研究会：民科科学部から独立し、科学史学会を再建。
労働運動史研究会：民科歴史部会から独立し、活動を継続。
日本生物科学者協会：民科理論生物学研究会から発展。
農業理論研究会：民科大阪支部農業部会から発展。
民科蚕糸技術研究会：民科蚕糸班から発展。
地学団体研究会：民科地学団体研究部会から発展。
児童言語研究会と言語学研究会：民科言語科学部会を母体として発足。

これらの部会は、運動体としての性格よりも、学術研究団体としての活動に重点を置いています。民科の当初の目的や活動は、むしろ日本科学者会議に引き継がれていると言えるでしょう。

主な刊行物（1950年代以前）

民科は、多くの刊行物を発行しました。以下に主なものを紹介します。

協会名義
科学年鑑（1947年版、1948年版）
講座資本論の解明（第1-第5）
ソ同盟における社会主義の経済的諸問題
科学者憲章
経済学教科書学習講座
農業部会
日本農業年報
自然科学部会
死の灰のゆくえ
生物部会
生物の集団と環境
生物の変異性
比較生化学入門
物理部会
日本の原子力問題
地学団体研究会
地球進化論
科学をわれらの手で
地球の起源
法律部会
法社会学の諸問題
心理学部会
児童心理学
芸術部会
芸術研究
大衆芸術論
ゲーテ作品と世界観
綜合ゲーテ研究
国民文学論
歴史部会
日本の歴史
世界歴史講座
宗教研究会
共産主義と宗教の将来

参考文献

柘植秀臣『民科と私：戦後一科学者の歩み』（勁草書房、1980年）
歴史科学協議会『歴史科学大系33・民科歴史部会資料集』（校倉書房、1999年）

関連リンク

民科法律部会ホームページ
蚕糸技術1~159号 民科 蚕糸技術研究会
民科 言語部会 関連資料

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