民族主義者行動党

トルコ共和国の民族主義政党：民族主義者行動党(MHP)の軌跡

民族主義者行動党(Milliyetçi Hareket Partisi, MHP)は、トルコ共和国の政党であり、トルコ民族主義を掲げる極右政党として知られています。本稿では、MHPの創設から現代までの歴史、イデオロギー、支持基盤、選挙結果、そしてトルコ政治における影響について詳細に解説します。

設立と初期の活動

MHPの前身は、1958年に設立された共和主義農民国民党です。1965年、アルパルスラン・テュルケシが同党に入党し、党首に就任すると、党組織を軍隊式に改編し、絶対的な権力を掌握しました。同時に、党の政策をトルコ民族主義に基づく極右路線へと転換させました。1969年には、党名を民族主義者行動党に改称しました。

テュルケシ率いるMHPは、1970年代、議会活動と議会外活動を並行して行いました。特に注目すべきは、MHPの青年組織「灰色の狼(Bozkurt)」の活動です。軍部の黙認の下、左翼学生や知識人、アレヴィー派などの少数民族への脅迫やテロ行為を繰り返しました。1978年のカフラマンマラシュ事件では、灰色の狼メンバーが100名以上のアレヴィー派信徒を虐殺するなど、社会不安の大きな要因となりました。

1980年クーデタとその後

1970年代の政治不安とテロ事件を受け、1980年9月12日、トルコ軍は軍事クーデタを実行し、MHPを含む全政党活動を禁止しました。テュルケシら党幹部は投獄されました。この出来事を機に、MHPの多くの支持者は中道右派政党である祖国党へと流れていきました。

1983年の民政移管後、MHPは再建を果たし、1992年には再び民族主義者行動党として活動を再開しました。テュルケシは1987年に政治活動禁止を解除され、再び党首に復帰しました。1990年代には、福祉党や改革民主党と選挙協力を行うなど、柔軟な対応も見せました。

テュルケシの死後と党の路線変更

1997年、テュルケシの死後、デヴレト・バフチェリが党首に就任しました。バフチェリは、党の路線を穏健化させ、非合法路線を放棄しました。1999年の総選挙では、クルド労働者党のオジャラン逮捕を背景に保守層の支持を拡大し、躍進を遂げました。その後、連立政権にも参加しましたが、2002年の総選挙では惨敗し、議席を失いました。しかし、2007年以降は議席を回復し、現在もトルコ議会に議席を有する政党の一つとなっています。

イデオロギーと支持基盤

MHPは、トルコ民族主義を基軸としたイデオロギーを掲げています。トルコ民族の一体性や文化的優越性を強調し、クルド人の文化や少数民族の権利を軽視する傾向があります。一方、伝統的なイスラム的価値観を重視する点では、イスラム復興勢力とも共通項を持ちます。

支持基盤は、都市の中下層住民、中小企業経営者、アナトリア中央部の住民などに広がっています。特に、クルド人居住地域と隣接する地域では、強い支持を得ています。

「9つの光」

テュルケシが提唱した「9つの光(Dokuz Işık)」は、MHPのイデオロギーを象徴する概念です。民族主義、理想主義、道徳主義、知性主義、社会主義、農村主義、自由主義、開発主義、産業主義という9つの柱から成り、トルコ民族の一体性、伝統的価値観の重視、国家主導による経済発展などを訴えています。

まとめ

民族主義者行動党は、トルコの政治史において重要な役割を果たしてきた政党です。極右的な民族主義を掲げながらも、時代に合わせて路線修正を行い、現在もトルコ政界に影響を与え続けています。その歴史と政策、支持基盤を理解することは、トルコ政治を理解する上で不可欠です。今後の動向にも注目が集まります。

もう一度検索