民衆党 (韓国 1990-1992)

韓国の革新政党「民衆党」：民衆の利益と民主化運動

1990年代初頭の韓国において、既存の政治勢力とは一線を画す革新政党として誕生したのが民衆党です。労働者、農民、都市住民、中小商人、自営業者、そして民主化運動家など、幅広い民衆の政治的勢力化を目的として、1990年11月10日（法的登録は同月19日）に発足しました。党名にも込められた「民衆のための政治」の実現を掲げ、韓国政治史における変革を目指しました。

民衆党の設立は、準備期間を経て段階的に進められました。1989年10月4日の「新政党のための臨時連絡事務所」設置を皮切りに、「進歩的大衆政党建設のための準備会」、「民衆の政党建設のための民主連合推進委員会」、「民衆政党結成準備委員会」と組織を整備し、民衆の政治参加の機運を高めていきました。

民衆党の綱領は、民衆主体の民主政府の樹立を第一に掲げていました。具体的には、北東アジアの平和保障体制構築に向けた国際協調、第三世界諸国との連携強化、民族共同体の形成、南北間の軍縮と平和協定締結による連邦制統一国家の実現などが含まれていました。経済面では、計画的市場経済体制の確立、主要産業の国有化、土地改革などが主張されました。また、労働者の権利擁護、文化活動の支援、教育改革なども重要な政策課題として位置付けられていました。

しかし、民衆党は、既存の政治勢力の壁に阻まれ、大きな成果を残すことなく、その歴史を終えました。1991年の広域自治体議会議員選挙では、42名の候補者を擁立したものの、当選者はわずか1名でした。翌1992年の第14代総選挙でも、51名の候補者を擁立しましたが、平均得票率は6.5％に留まり、議席獲得には至りませんでした。同年の大統領選挙でも、支援候補は1％程度の支持率しか得られませんでした。これらの結果を受け、民衆党は総選挙後に解体しました。

民衆党の活動は、韓国の民主化運動の中で重要な役割を果たしました。民衆の政治参加を促進し、既存の政治体制への挑戦を象徴する存在でした。しかし、その活動は短期間に終わりを告げました。その後、韓国の進歩勢力は、2000年に結成された民主労働党など、新たな政党を形成し、政治活動の継続を図ることになります。

民衆党の創設当時の主な党役員は、常任代表委員に李佑宰氏、代表委員に金祥基氏と金洛中氏、事務総長に李在五氏などが就任しました。政策委員長、対外協力委員長、人権委員長、労働委員長、女性委員長など、様々な分野の専門家や活動家たちが党運営を担っていました。

民衆党の失敗は、韓国における進歩勢力の弱さや、既存の政治体制の強固さを示すものと言えるでしょう。しかし、民衆党の活動は、韓国の民主化運動の歴史において、無視できない重要な一章を刻んでいます。民衆の政治参加と社会変革を訴えたその理念は、後世の進歩勢力に大きな影響を与えたことは間違いありません。


参考文献：
中央選挙管理委員会編『大韓民國政黨史　第4輯（1988.2.25～1993.2.24）』（韓国中央選挙管理委員会）
韓国史事典編纂委員会　金容権編著『朝鮮韓国近現代史事典』日本評論社
* 「ラテンアメリカの政治」の9．韓国の民主運動紹介「進歩政党の歴史」

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