民間文芸のモチーフ索引

民間文芸のモチーフ索引：民話研究の礎

スティス・トンプソンによって編纂された『民間文芸のモチーフ索引』(Motif-Index of Folk-Literature)は、民話研究において極めて重要な役割を果たす、民話モチーフの包括的な索引です。1932年から1936年にかけて全6巻で刊行され、その後増補版や電子版も制作されました。本書は、世界中の伝承文学に現れる無数のモチーフを網羅し、それらを独自の記号体系を用いて分類しています。例えば、「D150 人間から鳥への変身」といったように、具体的なモチーフを簡潔に特定できる仕組みです。

索引の体系と構成

この索引は、アルファベットと数字を組み合わせた独自の分類コードを用いています。アルファベット一文字がモチーフの大分類を表し、それに続く数字が小分類、さらに小数点以下の数字でサブモチーフを指定する体系です。例えば、「B100～B199 魔法の動物」のように、大分類からサブモチーフまで詳細な分類がなされています。

トンプソンは、ヨーロッパの説話にみられるモチーフを収集・分類し、この索引を作成しました。アンティ・アールネの民話の型(AT分類)を拡張する形で発展したこの索引には、何千ものモチーフが収録されており、民話研究における比較研究の基盤として機能しています。

モチーフの定義と索引の限界

トンプソンは、『民間説話』の中で「モチーフとは、伝承の中で生き続ける力を持つ、物語の最小単位」と定義しています。この「生き続ける力」は、何か異常で人目を引く要素を含むことで得られると彼は考えていました。しかし、初期にはより緩やかな定義を用いていたことも知られています。

この索引は、世界中の民話を網羅しようとした意欲的な試みですが、当然ながら限界も存在します。日本の昔話やアイルランド民話など、特定の地域や文化圏に限定された民話については、より詳細な索引の必要性が指摘されています。また、紙媒体時代の索引利用の不便さを解消するため、6巻目には巻末索引が追加されています。現代では電子版の利用により、検索が容易になっています。

民話研究における位置づけ

『民間文芸のモチーフ索引』は、世界で唯一、多様な民族の民話にわたるモチーフ索引であり、比較民話研究において国際的な基準として広く認められています。民話の型(AT分類)と併せて、民話研究において最も重要な参考文献・研究ツールの一つとされています。多くの民俗学者や研究者が、この索引を分析や比較研究に活用しています。

話型との関係

この索引に収録されているモチーフは、組み合わせることで様々な民話が成立します。ロシアの比較研究者アレクサンドル・ヴェセロフスキーは、物語の筋をモチーフの複合(クラスター)と捉えており、トンプソンも同様に「モチーフの複合」という表現を用いています。しかし、単なるモチーフの羅列が必ずしも物語を構成するとは限らず、「勇士の冒険譚」といった枠組みの中に、真の物語が入れ子になっている場合もあることに注意が必要です。

まとめ

『民間文芸のモチーフ索引』は、民話研究に革命をもたらした画期的な作品です。その網羅性と体系性は、民話研究者の間で高く評価されており、今後も民話研究に欠かせない重要なツールとして利用され続けるでしょう。しかし、その限界も踏まえつつ、他の研究成果と合わせて活用することが重要です。

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