水を抱く女

水を抱く女：運命と愛の狭間で揺れる女性の物語

2020年、ドイツとフランスの合作により誕生した映画『水を抱く女』（原題：Undine）は、古代から伝わる水の精ウンディーネの物語を現代のベルリンに再解釈した、美しくも切ない恋愛ファンタジーです。監督・脚本を務めたのはクリスティアン・ペツォールト、主演はパウラ・ベーアとフランツ・ロゴフスキ。過去にもペツォールト監督作品で共演経験のある2人が、再び息の合った演技で物語を彩ります。

ウンディーネ神話は、愛する男に裏切られた場合、彼を殺めて水中に帰るという悲しい運命を背負った水の精の物語です。多くの過去の映画化作品では男性の視点から物語が展開されることが多かった中、『水を抱く女』は女性の視点に焦点を当て、ウンディーネの葛藤や心の揺れを繊細に描き出しています。

物語のあらすじ

主人公ウンディーネは、ベルリンで都市開発史を研究する歴史家として働いています。恋人ヨハネスに突然別れを告げられた彼女は、心の傷を抱えながら日々を過ごしていました。そんな中、カフェで起きた事故がきっかけで、潜水作業員のクリストフと出会います。彼の温かさに触れ、ウンディーネは新たな恋に希望を見出します。

しかし、過去の影は容易には消え去りません。ヨハネスがウンディーネとクリストフの交際を知り、復縁を迫ってきたのです。ウンディーネは彼の申し出を拒絶しますが、その夜、クリストフから嫉妬に駆られた電話がかかってきます。一方的に切られた電話にウンディーネは折り返しますが、クリストフは出ません。翌日、クリストフが潜水作業中の事故で病院に搬送されたことを知ったウンディーネは、彼のもとに急ぎます。しかし、そこで告げられたのは、クリストフが既に脳死状態であるという衝撃的な事実でした。前夜の電話は、彼の意識がある状態ではかけられていなかったのです。

絶望に打ちひしがれたウンディーネは、ヨハネスの元を訪れます。そこには、新しい恋人ノラとの幸せそうな姿がありました。激しい怒りに駆られたウンディーネは、ヨハネスをプールで溺死させます。そして、自らの運命を受け入れるかのように、沼へと身を投げ、泡となって消えていくのです。

一方、奇跡的に意識を取り戻したクリストフは、ウンディーネの失踪に気づき、必死に彼女を探しますが、ウンディーネの行方は分からずじまい。それから2年後、クリストフは潜水仲間のモニカと新しい生活を始めていました。モニカはクリストフの子を妊娠しており、穏やかな日々を送っていました。

ある日、クリストフは、かつてウンディーネと過ごした思い出の場所であり、事故現場でもある沼での潜水作業を依頼されます。作業中、クリストフは水中を漂うウンディーネの姿を目撃します。しかし、作業記録には何も映っていませんでした。

その夜、モニカのもとを抜け出したクリストフは、ウンディーネを呼びながら沼に入っていきます。モニカは彼を呼び止めますが、クリストフはウンディーネのもとへと消えていくのでした。そこには、かつてクリストフがウンディーネに贈った潜水夫の人形が握られていました。

キャストと製作

パウラ・ベーアはウンディーネ役を見事に演じ、ベルリン国際映画祭で銀熊賞（女優賞）を受賞しました。クリストフ役を演じたフランツ・ロゴフスキとの共演も、本作の見どころの一つです。また、監督のクリスティアン・ペツォールトは、国際映画批評家連盟賞を受賞しています。ペツォールト監督は、前作『未来を乗り換えた男』の撮影中に、ふとパウラ・ベーアとフランツ・ロゴフスキに本作への出演をオファーしたことがきっかけとなり、本作の脚本が生まれたそうです。

作品の評価

Rotten Tomatoesでは133件のレビューのうち89%が高評価、Metacriticでも平均点が75点と高い評価を得ています。複雑なストーリーテリングでありながらも、ウンディーネとクリストフの魅惑的なロマンスが物語全体を支え、観る者を惹きつけています。

『水を抱く女』は、神話と現代社会の融合、そして運命と自由意志の葛藤を描いた、記憶に残る傑作です。

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