水屋の富

「水屋の富」は、古典落語の演目の一つで、そのルーツは文政10年（1813年）に刊行された笑話本『百成瓢』に収録された「富の札」という話に遡ります。この話に、安永3年（1774年）刊行の笑話本『仕形噺』の「ぬす人」という話から、水屋が神経衰弱になる件が組み合わさって現在の形になったとされています。

主な演者としては、三代目柳家小さん、五代目柳家小さん、五代目古今亭志ん生、十代目金原亭馬生、三代目古今亭志ん朝など、数々の名人がこの噺を演じてきました。

物語は、主人公の親八という水屋が、宝くじで大金を手に入れるところから始まります。親八は、玉川上水や神田上水といった場所から汲んできた水を、本所や深川といった低湿地帯に住む人々に売り歩く生活をしていました。彼はかねてからまとまったお金が欲しいと思っており、そんな折に購入した宝くじが見事大当たり。八百両という大金を手に入れることになります。

大喜びで家に帰った親八でしたが、この大金の隠し場所に頭を悩ませます。泥棒に入られたら大変です。色々と悩んだ結果、彼は畳を上げて根太板を剥がし、そこに通っている丸太に五寸釘を打ち込み、そこに金包みを引っ掛けて隠すという方法を思いつきます。これで安心、と思ったのも束の間、彼は仕事中も金のことが気になって仕事が手につかず、夜は強盗に襲われて金を奪われる夢ばかり見てしまい、心休まる暇がありません。金を手に入れたはずなのに、逆に精神的に追い詰められていきます。

一方、親八の隣に住むヤクザは、水屋が毎朝縁の下に竿を突っ込み、帰宅するとまた同じことを繰り返しているのに気づき、不審に思います。何かあると睨んだヤクザは、親八が留守中に家に忍び込み、根太板を剥がして隠されていた大金を見つけます。そして、この大金をそっくりそのまま盗んで逃げ出してしまいます。

仕事から帰ってきた親八が、いつものように竹竿で縁の下をかき回すと、いつもの感触がありません。慌てて根太を剥がしてみると、そこには金がありません。盗まれたのです。彼は「俺の金が…、今晩からゆっくり寝られるな」とつぶやきます。大金を失ったことに対する悲しみよりも、精神的な重圧から解放された安堵の気持ちが勝ったのでした。

この噺の面白さは、大金を手に入れた喜びから一転して、その管理に悩み、精神的に追い詰められていく親八の姿を滑稽に描いている点にあります。また、隣に住むヤクザという存在も、この物語に一波乱加えており、話全体を盛り上げる要素となっています。金銭に対する人間の欲望や執着が、コミカルに表現されている落語と言えるでしょう。

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