水木しげる秘話シリーズ

水木しげる秘話シリーズ

『水木しげる秘話シリーズ』は、漫画家・水木しげるが1959年から1960年にかけて兎月書房から刊行した貸本向け戦記漫画シリーズです。このシリーズは、水木しげるが責任編集を務めていた貸本向け戦記漫画専門誌『少年戦記』の姉妹誌『陸海空』に掲載されました。戦時下の兵士たちの過酷な現実を、水木しげる独自の視点と画力で描き出しています。

概要

このシリーズは、全3話で構成されており、各話で異なる戦場の物語が展開されます。いずれも戦争の残酷さや、極限状態における人間の心理、そして兵士たちの悲哀を深く掘り下げた内容となっています。特に、1話目の「ダンピール海峡」は、1970年に雑誌向けにリメイクされ、より多くの読者に触れる機会を得ました。

各話あらすじ

ダンピール海峡

1959年に『陸海空2』に掲載された本作は、ダンピール海峡での悲劇を描きます。物語は、軍旗を最後まで守り抜こうとした一兵士の姿を中心に展開されます。昭和18年2月28日、高崎歩兵第115連隊を基幹とする約2万の将兵が、輸送船でニューギニアのラエ方面へ向かう途中、ダンピール海峡で敵の爆撃を受け、輸送船は全滅します。多くの将兵が命を落とす中、生き残った一兵士は、明治以来70年の歴史を持つ軍旗を一人で守り抜こうとします。血まみれになりながらも、彼は軍旗を掲げ、ダンピール海峡の見える丘で息絶えます。この物語は、戦争の無情さと、兵士の忠誠心を描いた作品です。

絶望の大空

1959年に『陸海空3』に掲載された「絶望の大空」は、撃墜王・坂井三郎が主人公です。昭和17年8月7日、ガダルカナル上空で敵機を撃墜した坂井は、直後に8機の敵編隊と遭遇します。アベンジャーからの猛烈な機銃掃射を受け、瀕死の重傷を負いますが、彼は諦めずに生還を試みます。失明した状態で計器が見えない中、彼は自爆も考えますが、これまでの経験を頼りに生きることを選びます。坂井の不屈の精神を描いた作品であり、人間の強さを感じさせます。

マリアナの竜

1960年に『陸海空4』に掲載された「マリアナの竜」は、マーカス島の月形少将を巡る物語です。米軍はグアム島を占領しますが、日本の奇襲により壊滅します。米軍は月形少将を「マリアナの竜」と恐れ、日系米兵の本田軍曹に暗殺を命じます。本田はマーカス島で偽装投降し、日本の飛行機修理工場に潜入します。そして、12月31日、ついに月形少将の宿舎を爆破し逃走します。この物語は、敵対する立場でありながら、人間としての感情が入り混じる複雑な心境を描いています。

関連項目

• - 水木しげる作戦シリーズ

書籍情報

• - 『大空戦 水木しげる戦記選集』（宙出版、2008年7月、ISBN 9784776794875）
• - 『鬼軍曹 水木しげる戦記選集』（宙出版、2008年10月、ISBN 9784776795018）
• - 『貸本戦記漫画集(6) 絶望の大空 他』（講談社〈水木しげる漫画大全集〉、2017年10月、ISBN 978-4-06-377574-7）

参考書籍

• - 山口信二『水木しげる貸本漫画のすべて』YMブックス、2007年5月。ISBN 978-4-903548-08-1。

これらの作品は、水木しげるの戦記漫画における独特の視点と表現力が際立つシリーズです。戦争の悲惨さだけでなく、人間の強さ、葛藤、そして悲哀を描いた作品群として、今もなお多くの読者に感動を与え続けています。

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