水汲み水車

水汲み水車（ノーリア） - 古代からの灌漑技術

水汲み水車、別名ノーリア (noria) は、水を汲み上げて灌漑などに利用する機械です。垂直に設置された車輪に多数のバケツを取り付け、回転させることで水を汲み上げます。その歴史は古く、中近東を中心に世界各地で使われてきました。本稿では、水汲み水車の種類、歴史、そして世界における利用例について詳しく解説します。

水汲み水車の種類

水汲み水車は、動力源によって主に3種類に分類されます。

1. 畜力式: 最も初期の形式で、ロバ、ヤギ、牛などの家畜の力を利用して車輪を回転させます。家畜が円を描くように歩き、その動きを歯車などの機構を通じて水車に伝達します。水面下8メートルほどの深さから水を汲み上げることが可能です。

2. 風力式: 粘土や木製のバケツを用い、風力を動力源とします。スペインのカルタヘナ周辺などに見られ、風車の構造と類似しています。

3. 流水式: 川の流れを動力源とする大型の水車です。幅の狭い水車を使い、外周部に設置された容器で水を汲み上げ、用水路へ導きます。製粉用など多様な用途を持つ水車とは異なり、水汲み上げが唯一の目的です。

これらに加え、複数の動力源を組み合わせた水汲み水車も存在します。いずれの種類も、水車を最高点より高く持ち上げることはできません。

水汲み水車の歴史

水汲み水車の起源については諸説ありますが、紀元前350年頃のインドの文献に記述があるとする説や、紀元前1世紀のローマの詩人ルクレティウスの著作に類似の記述が見られるなど、古代から存在したことが示唆されています。

しかし、水汲み水車が広く普及したのは、8世紀以降の中近東、特にイスラム世界での農耕拡大と深く関わっています。イスラム世界では、水汲み水車の改良が盛んに行われ、技術革新が重ねられました。例えば、アンダルスの技術者イブン・バッサルはフライホイール機構を導入し、アル＝ジャザリはクランクシャフトを導入して効率を高めるなど、多くの貢献がありました。

中世イスラム世界では、直径20メートルを超える巨大な水汲み水車も使用されており、シリアのハマーに残る水車は、その代表例として現在も稼働しています（観光目的の要素が大きいですが）。このハマーの水車は、120個のバケツで1分間に最大95リットルの水を汲み上げます。2021年にはイラクにおける伝統的な水車製作技術がUNESCOの無形文化遺産に登録されました。

一方、中国では戦国時代後期にはねつるべが、前漢代には竜骨車が開発され農業に使われました。宋代には農業生産の拡大に伴い、水汲み水車の改良が進み、10世紀には普及しました。

日本でも竜骨車が使われていましたが、江戸時代には人力で操作できる踏車が考案され、その簡便さから広く普及しました。踏車は昭和初期まで使用されていました。

まとめ

水汲み水車は、古代から現代まで世界各地で利用されてきた重要な灌漑技術です。その歴史は長く、様々な地域で独自の発展を遂げてきました。現在でも、一部地域では現役で使用されているほか、歴史的遺産としてその技術や文化的な意義が評価されています。今後、水資源の確保がますます重要になる中で、水汲み水車のような伝統的な技術を見直すことも重要な課題となるでしょう。

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