水無川 (富山県)

水無川（みずなしかわ）、あるいは水無谷（みずなしだん）と呼ばれるこの川は、富山県南砺市に位置する庄川水系の一級河川、利賀川の主要な支流の一つです。

その源流は、富山県と岐阜県の境界が連なる山岳地帯に広がる、手つかずのブナ原生林の中にあります。ここから流れ出した水は、おおむね北東から南西の方向へと進路を取り、深い森を縫うように流れます。流域一帯は、太古からの豊かな自然環境が保たれており、ブナの巨木が茂る原始林が広がっています。

また、標高1,200メートルを超える比較的高地のエリアには、点在する湿原が存在し、多様な湿性植物の宝庫となっています。そこには、ヨシの広大な群落や、イヌコリヤナギが水辺に沿って生育する林、さらにはヤチスゲなどが密生する独特の湿地植生が見られます。これらの湿原は、この地域の貴重な生態系を支えています。

水無川は、流れ下る途中で、南西方面から流れてくるアテビョウ谷と合流します。この二つの川が一つとなる地点には水無ダムが築かれており、ここで合流した流れは利賀川と名称を変えます。利賀川はその後、北向きに流れを変え、利賀谷の様々な支流からの水を集めながら、最終的に庄川の本流へと注ぎ込みます。

水無川とアテビョウ谷が長い年月をかけて刻んだ渓谷は、両側に険しい急斜面が迫る地形が特徴です。この渓谷の南側には、標高1,300メートルから1,500メートル級の山々が連なり、それが富山県と岐阜県の県境線を形作っています。こうした峻険な地形の中で、水無川の右岸側には比較的平坦な地形が広がる場所がありました。かつてこのわずかな平地に、「水無集落」と呼ばれる人々の暮らしがありました。

水無集落は、最も栄えた時期には18世帯が生活を営んでいたと伝えられています。しかし、昭和48年（1973年）11月に水無ダムが完成したことが、集落の歴史における大きな転換点となりました。ダムの完成は、この地の生活環境や生業に大きな変化をもたらし、多くの住民が集落を離れるきっかけとなりました。その後も離村は進み、現在ではこの水無集落跡に定住する人々はいません。かつての集落の面影は薄れつつありますが、厳しい自然の中で人々が確かに生きていた痕跡が、静かに残されています。

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