水腫性変性

水腫性変性（すいしゅせいへんせい、英: hydropic degeneration）とは、細胞が異常に膨らみ、組織が淡く見える病的な状態を指します。これは、細胞が様々な原因によって障害を受けた際に起こる、細胞変性と呼ばれる一連の変化の一つです。

この変性の特徴は、細胞の内部、特に細胞質に、タンパク質成分をほとんど含まない余分な液体が大量に蓄積することです。この液体の流入により、細胞質の基質部分が拡大し、細胞全体が大きく腫れあがったような形態をとります。

水腫性変性が生じた細胞や組織は、肉眼や顕微鏡で観察すると、通常よりも色が薄く、透明感があるように見えます（これを「淡明化」と呼びます）。細胞が風船のように膨らんでいることから、「風船様変性（ballooning degeneration）」とも呼ばれることがあります。特に、活発な代謝や輸送を行う臓器の細胞、例えば肝臓の肝細胞や腎臓の尿細管を構成する上皮細胞などで観察される頻度が高いです。

水腫性変性の主な原因は、細胞を取り巻く外部環境の変化にあります。特に、血管内の圧力（血管内圧）が上昇したり、組織を循環する液体の浸透圧が異常に高まったりすることが、細胞膜を通して必要以上の液体が細胞内に流入する引き金となります。これは、全身の循環障害や電解質バランスの異常など、様々な病態と関連しています。

病理組織学的な検査で細胞の状態を詳しく調べる際、ヘマトキシリンとエオジンを用いた通常の染色（HE染色）がよく用いられます。しかし、水腫性変性によって細胞内に貯留した液体は、これらの染色色素とはほとんど結合しません。そのため、HE染色標本では、腫大した細胞の内部が薄い、あるいはほとんど染まらない透明な領域として観察されることが多く、細胞質が淡くぼやけて見えたり、核が辺縁に圧迫されたりする様子が認められます。

細胞内に液体が溜まる変性としては、「空胞変性（vacuolar degeneration）」と呼ばれる状態もあります。水腫性変性では、液体が細胞質全体に比較的均一に、あるいは局所的に明確な膜構造を持たずに溜まる傾向があるのに対し、空胞変性では、蓄積した液体が小胞体などの細胞内小器官の膜によって囲まれ、顕微鏡下で一つまたは複数の明確な袋状の構造（空胞）として観察される点を特徴とします。両者は液体蓄積による変性ですが、その形態的な違いから区別されることがあります。

水腫性変性は、細胞が受けている障害が比較的軽度である場合や、障害の原因が一時的なものである場合には、原因が取り除かれることで細胞が元の状態に戻る（可逆的である）可能性もあります。しかし、変性が進行したり、障害が持続したりする場合には、細胞の機能が著しく損なわれ、最終的に細胞死（例えば壊死）に至ることもあります。

この変性は、様々な種類の細胞障害で見られる非特異的な変化であり、病気の原因を特定するためには、水腫性変性が観察された背景にある全身的な病態や、他の組織の変化と合わせて総合的に評価することが重要です。病理診断において、細胞レベルの異常として水腫性変性を認識することは、病態の進行度や原因を推測する上で役立つ知見となります。

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