肝細胞

肝細胞：肝臓の司令塔

肝臓は、人体で最も重要な臓器の一つであり、その機能の中核を担うのが肝細胞です。肝臓全体の70～80％を占める肝細胞は、直径約20マイクロメートルほどの大きさで、多様な代謝機能を担うことで知られています。

肝細胞の多様な役割

肝細胞の主な役割は、大きく分けて以下の5つに分類できます。

1. タンパク質の合成と分泌: 肝細胞は、アルブミンなどの血漿タンパク質、血液凝固因子、リポタンパク質、トランスフェリンなどの重要なタンパク質を合成し、血液中に分泌します。これらのタンパク質は、血液の凝固、脂質の輸送、鉄の輸送など、様々な生命維持に不可欠な役割を果たしています。さらに、肝細胞自身に必要な構造タンパク質や酵素なども合成しています。

2. 炭水化物の代謝: 肝細胞は、摂取した糖質をグリコーゲンとして貯蔵したり、必要に応じてブドウ糖を生成したりします。また、糖新生という過程を通じて、アミノ酸や脂肪酸から糖を合成することもできます。さらに、糖質から脂肪酸を生成し、脂肪酸とグリセリンから中性脂肪を合成する役割も担っています。

3. 脂質の代謝: 肝細胞は、体内で吸収された脂質を代謝し、コレステロールや胆汁酸を合成します。コレステロールは、細胞膜の構成成分として重要であり、胆汁酸は脂質の消化吸収に不可欠な物質です。肝臓は、体内で唯一胆汁を合成する臓器です。

4. 解毒作用: 肝細胞は、薬物、アルコール、環境毒物など、体内に侵入した有害物質を代謝、解毒、不活性化します。この過程において、肝細胞は、有害物質を水溶性にして、尿や胆汁中に排泄しやすくします。アンモニアを無毒な尿素に変換するのも肝細胞の重要な解毒機能の一つです。

5. 胆汁の生成と分泌: 肝細胞は、胆汁を生成し、胆管を通じて十二指腸に分泌します。胆汁は、脂質の消化吸収に重要な役割を果たしています。

肝細胞の組織学的特徴

肝細胞は、多量のミトコンドリアを含むため好酸性の細胞質を持ち、粗面小胞体とリボソームの存在によって好塩基性の斑点が見られます。加齢とともに褐色リポフスチン顆粒が増加します。細胞質中には、グリコーゲンや脂質が貯蔵されており、試料調製の過程で消失することがあります。肝細胞の平均寿命は約5ヶ月ですが、再生能力を持っています。

肝細胞の核は球形で、分散したクロマチンと明確な核小体があります。多くの肝細胞は、二核細胞や四倍体以上の多倍体細胞であり、核の大きさにばらつきが見られます。肝細胞は、レチクリン線維で支持された類洞という特殊な血管構造の周囲に、平板状に配列して肝細胞板を形成しています。類洞の内皮細胞は有窓型で基底膜を欠き、ディッセ腔を介して肝細胞と接しています。ディッセ腔には、クッパー細胞（食細胞）や伊東細胞（ビタミンA貯蔵細胞）が存在します。

肝細胞の機能と疾患

肝細胞は、薬物代謝や毒物代謝など、生体異物の代謝を評価する上で非常に重要な指標となります。しかし、肝細胞は培養が困難であり、低温保存にも弱いため、研究や臨床応用においては特別な注意が必要です。肝細胞の機能障害は、肝炎、肝硬変、肝細胞癌などの様々な肝疾患につながります。

まとめ

肝細胞は、肝臓の主要な細胞であり、タンパク質合成、炭水化物代謝、脂質代謝、解毒など、生命維持に不可欠な多様な機能を担っています。肝細胞の構造と機能を理解することは、肝臓の健康を維持し、肝疾患の予防・治療に繋がる重要な一歩となります。

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