水谷惟恭

材料工学者である水谷惟恭（みずたに のぶやす）氏は、1942年に誕生しました。長年にわたり日本の材料科学分野、特に無機材料の研究と教育、そして高等教育機関の運営に多大な貢献をしてこられました。

その学歴は、1964年に千葉大学工学部工業化学科を卒業することから始まります。その後、東京工業大学大学院理工学研究科へ進学し、化学工学の博士課程を1970年に修了。同年には工学博士の学位を取得されています。

学位取得後、直ちに母校である東京工業大学に奉職。工学部無機材料工学科の助手として研究者・教育者としてのキャリアをスタートさせました。1975年には同科の助教授に昇任。この間、研究活動の国際的な広がりとして、1977年にはアメリカ合衆国の高名なマサチューセッツ工科大学に客員研究員として招聘され、海外での研究経験も積まれています。

1988年、東京工業大学工学部無機材料工学科にて、無機合成材料講座の教授に就任。中心的な立場で研究室を主宰し、後進の育成にあたられました。この時期の研究成果は学界で高く評価され、1992年には日本セラミックス協会から学術賞を授与されています。大学院重点化に伴い、1999年からは大学院材料工学専攻の無機機能材料講座（材料ミクロ構造分野）教授を務められました。

教育・研究活動に加え、大学運営においても重要な役割を担い、2001年には東京工業大学工学部長という要職を務められました。学部長として、工学部の教育・研究体制の発展に尽力されました。

2005年に東京工業大学を定年により退職された後も、同大名誉教授の称号を受け、引き続きものつくり教育研究センターの特任教授として、ものづくり教育の推進に貢献されました。

大学を離れた後もその手腕は求められ、2006年には東京工業高等専門学校の校長に就任。高等専門教育の現場において、未来を担う技術者育成のためにリーダーシップを発揮されました。校長退任後も、2010年には国立高等専門学校機構の顧問や、豊橋技術科学大学の監事（非常勤）を務めるなど、高等教育全体の発展に関与されました。

教育機関以外でも、専門分野の学会活動に深く関与し、日本セラミックス協会の副会長を務めたほか、2017年には同協会の名誉会員となっています。さらに、日本工学教育協会の理事、日本学術会議の無機材料専門委員会委員、文部科学省中央教育審議会の高等専門学校特別委員会および留学生特別委員会の委員など、国の教育政策や学術振興に関わる様々な委員会でも委員を歴任。教育界、学術界の発展に幅広く貢献されました。

長年の功績が認められ、2016年には学校法人嘉悦学園の理事長に就任。私学の経営にも携わりました。

これらの多岐にわたる貢献に対し、2020年には瑞宝中綬章が叙勲されています。水谷氏は、材料工学の研究者、教育者としてだけでなく、大学・高専・私学の運営、そして国や学会の委員としても、日本の学術・教育界に大きな足跡を残しました。

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