水野稔

水野稔：近世文学研究の第一人者

水野稔(1911年4月15日-1997年8月19日)は、日本の国文学を代表する学者の一人です。その専門は日本近世文学、中でも山東京伝研究においては卓越した功績を残しました。兵庫県姫路市に生まれた水野は、兄の早世がきっかけとなり、近世文学研究への道を歩み始めます。姫路高等学校を経て東京大学文学部国文学科を卒業、同大学院を修了後、学究の道を歩み始めました。

水野のキャリアは、仙台陸軍幼年学校や陸軍予科士官学校での教職を経て、戦後、兵庫県立姫路商業学校、兵庫県立姫路工業大学付属高等学校、そして同大学講師と、教育機関での勤務が続きます。1955年には明治大学文学部助教授に就任、1960年には教授に昇進します。明治大学では長年にわたり後進の育成に尽力し、1982年に定年退職を迎えます。

研究活動においては、江戸時代の小説や戯作、黄表紙、洒落本といった多様なジャンルの作品を対象に、鋭い洞察力と深い知識に基づいた研究成果を発表し続けました。特に、山東京伝の作品研究では、その独特のユーモアや風刺、そして社会風俗への深い理解を明らかにすることで高い評価を得ました。その業績は、単著や共著、編著、そして校注本といった多様な形で結実しています。

代表的な著書として、『江戸小説論叢』『黄表紙・洒落本の世界』『山東京伝の黄表紙』(のちに『江戸文芸新考』と改題)『山東京伝年譜稿』などがあり、いずれも近世文学研究の重要な参考文献となっています。また、古典作品に対する校注にも力を注ぎ、『日本古典文学大系』や『古典日本文学全集』などへの貢献は多大です。数多くの古典作品を現代の読者にも理解できるよう丁寧に解説した水野の校注は、日本の古典文学研究に大きな影響を与えました。

1991年には交通事故に遭い、車いす生活を余儀なくされますが、それでもなお研究活動を続けました。1997年、慢性腎不全のため逝去しました。（遺族による年譜では心不全）。水野の没後、その旧蔵書は明治大学図書館に寄贈され、「江戸文芸文庫」として貴重な資料として保存・公開されています。水野稔の研究は、近世文学研究に多大な貢献をしただけでなく、その著作は現在でも多くの研究者や学生に読み継がれ、日本の文化遺産の理解を深める上で大きな役割を果たし続けています。彼の学問への情熱と、鋭い洞察力、そして後進への指導は、日本の国文学界に深い足跡を残しました。水野稔の功績は、これからも長く記憶され続けることでしょう。

主な著書・編著書・校注本

単著：『江戸小説論叢』、『黄表紙・洒落本の世界』、『山東京伝の黄表紙』、『山東京伝年譜稿』など
編著：『日本古典鑑賞講座 第25巻 馬琴』、『近世文学論叢』など
* 校注本：『日本古典文学大系 第59.黄表紙洒落本集』、『古典日本文学全集　江戸小説集』収録作品(恋川春町「金々先生栄華夢」、式亭三馬「浮世床」)など多数

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