永尾嘉章

概要

兵庫県三木市に生まれ、神戸市を拠点に活動した元車いす陸上競技選手（クラスT54）。日本の車いす陸上界におけるパイオニアの一人として広く認識されており、パラリンピックには陸上競技で史上最多となる7大会連続出場という前人未踏の記録を樹立した。その驚異的な粘り強さと長期間にわたる活躍ぶりから、メディアなどでは「超人」や「ラストサムライ」といった異名で呼ばれることもあった。現役引退後も、長年の経験を活かして後進の育成やパラスポーツ全体の振興に力を注いでいる。

競技歴と功績

5歳の時にポリオ（小児麻痺）を発症。兵庫県内の養護学校高等部に在学中、車いす陸上競技と出会い、アスリートとしての道を歩み始めた。1980年の栃木国体において、100メートル走とスラロームに出場したのが競技者としての初期の記録である。

陸上競技と並行して、1982年からは車いすバスケットボールにも挑戦。1990年には、ベルギーで開催されたゴールドカップに日本代表チームの一員として出場する栄誉を得た。しかし、この大会を最後に車いすバスケットボール競技から退き、陸上競技一本に絞ることを決断したことが、その後の飛躍に繋がった。

1991年には、ソウルパラリンピックの車いすスラロームで金メダルを獲得した伊藤由美氏と結婚。競技に打ち込む上で精神的な支えを得た。

パラリンピックにおける偉業

永尾氏のキャリアを象徴するのは、パラリンピックへの連続出場記録である。1988年のソウル大会に初出場して以来、1992年バルセロナ、1996年アトランタ、2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京、そして2016年リオデジャネイロと、実に7大会連続で世界の舞台に立ち続けた。これは、日本のパラリンピック陸上競技選手としては歴代最多の出場数である。

単に出場回数が多いだけでなく、各大会での安定した成績も特筆される。自身が属するT54クラスは世界的に層が厚く、競争が非常に激しいクラスでありながら、出場したすべてのパラリンピックで決勝への進出を果たしている。

中でも、2004年のアテネパラリンピックでは、日本選手団の主将という重責を担った。この大会において、永尾氏は400メートルリレー（4×400メートルリレー）で銅メダルを獲得。これは、彼自身にとって初めてのパラリンピックでのメダル獲得であり、同時に日本の車いす陸上リレーチームとしても史上初のメダルという、歴史的な瞬間を飾った。

パラリンピック以外でも、2005年にはアテネでの活躍が評価され、国際陸上競技連盟（現ワールドアスレティックス）主催の世界陸上競技選手権大会ヘルシンキ大会に招待選手として出場。世界のトップアスリートたちと競い合い、5位入賞という成績を残した。2012年においても自己記録を更新するなど、年齢による衰えを感じさせないパフォーマンスを見せ続けたことは、多くの人々に感動と勇気を与えた。

引退、そして新たな挑戦

2017年、長きにわたる競技生活に区切りをつけ、現役引退を表明した。引退後は穴織カーボン株式会社に入社する傍ら、一般社団法人日本パラ陸上競技連盟の要職に就き、次世代アスリートの育成や競技の普及・発展に情熱を注いでいる。

また、自身の波乱万丈な競技人生で培った経験や知恵を次世代に伝える活動も積極的に行っている。2019年からは、全国各地の学校や企業を訪れ、体験型授業や講演を通じてパラスポーツの楽しさや、「あきらめない心」の大切さを説き、人々に希望を与えている。

さらに、メディアの仕事にも活動の場を広げ、パラ陸上競技世界選手権や2020年東京パラリンピック競技大会では、テレビ解説者として専門的な視点から競技の魅力を分かりやすく伝え、パラスポーツへの理解促進に貢献した。

主な表彰歴

厚生労働大臣賞
内閣総理大臣顕彰
兵庫県優秀スポーツ選手賞
神戸市優秀スポーツ選手賞
神戸新聞スポーツ賞

メディア出演等

ミュージック・ビデオ：サザンオールスターズ「君こそスターだ」（2004年）
ドキュメンタリー：『アスリートの魂』（2015年）
解説：パラ陸上世界選手権ロンドン大会（2017年）、2020東京パラリンピック競技大会（2021年）

永尾嘉章氏のキャリアは、不屈の精神と継続的な努力が困難を乗り越え、いかに偉大な功績を築き上げるかを示している。彼の残した足跡は、日本のパラスポーツ界において、今後も長く語り継がれていくだろう。

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