車いす陸上競技

車いす陸上競技は、下肢等に障害を持つ選手が競技用車いすに乗って行う陸上競技の一分野です。一般の陸上競技と同様に、投てき種目のフィールド競技、短距離から長距離までのトラック競技、そしてマラソンなどのロードレース種目があります。特に高速で走行するトラック種目やロードレースでは、空気タイヤを備え、軽量化された3輪の競技用車いす（通称「レーサー」）が主に用いられます。国内外で数多くの競技会が開催されており、最も権威ある大会の一つが夏季パラリンピックです。トップ選手のレースでは時速約36kmに達することもあり、そのスピードと迫力は観る者を魅了します。

歴史

車いす陸上競技を含む障害者スポーツの発展は、第二次世界大戦後の社会状況と深く関わっています。多くの傷痍軍人がリハビリと社会復帰を必要とした時代、英国ストーク・マンデビル病院の脊髄損傷センターで、ルートヴィヒ・グットマン博士はスポーツをリハビリテーションに導入しました。1948年に脊髄損傷者のための「ストークマンデビル競技大会」が開催され、これが車いすスポーツの礎となります。この取り組みは欧米に広がり、1952年にはイギリスとオランダの選手による車いすスポーツ初の国際競技会が行われ、国際交流が始まりました。1960年には国際ストークマンデビル車いす競技連盟（ISMWSF）が設立され組織化が進み、パラリンピック等を通じて参加する障害の種類も拡大していきました。

競技種目

車いす陸上競技には多様な種目があります。主なものは以下の通りです。

トラック競技: 100m、200m、400mといった短距離、800m、1500mの中距離、5000m、10,000mの長距離、そして4×100m、4×400mのリレー競走があります。
ロードレース: マラソンが代表的な種目です。
* フィールド競技: 砲丸投、やり投、円盤投などがあり、専用の投てき台や固定具を使用して行われることがあります。

これらの種目は、選手の障害の種類や程度に応じたクラス分けに基づいて実施されます。

クラス分けのシステム

競技の公平性を確保するため、選手の障害の種類や機能レベルに応じたクラス分けが行われます。主なカテゴリーは、脊髄損傷や切断による車いす使用者と、脳性麻痺や運動失調による使用者です。

脊髄損傷や切断によって車いすを使用する選手は、トラック競技ではT51～T54クラス、フィールド競技ではF51～F58クラスに分類されます。数字が小さいほど障害の程度が重く、例えばT54クラスの選手は腰から上の体幹機能が一部保たれていますが、T51クラスでは主に上肢の機能のみで車いすを操作します。脳性麻痺や運動失調の選手はT/F32～T/F38クラスとなり、車いすを使用する選手はT/F32～T/F34、立位で競技する選手はT/F35～T/F38に分けられます。

規則と用具

競技用車いすは国際パラリンピック委員会（IPC）の競技規則に準拠します。基本的に前1輪、後2輪の3輪構造で、軽量な空気タイヤを備えています。フレームサイズ、車輪径（空気を入れた状態で大輪70cm、小輪50cmまで）、車体本体の地面からの高さ（最高50cm）などに規定があります。推進は各後輪に取り付けられたプッシュリムを手で操作する方法のみが認められており、機械的なギアやレバー、ミラーの使用は禁止です。競技中は選手の下肢が地面やトラックに接触しないようにしなければなりません。

競技に使用される車いすは事前に測定検査が行われ、規則に適合していることが確認されます。これらの規則は、選手の安全確保と公平な競争環境の維持のために定められています。

関連する呼称

競技用車いすを用いたトラックやロードの競技は「車いすレース」と呼ばれます。これらの競技に取り組む選手は「車いすランナー」や、特に競技会で上位を目指す場合は「車いすアスリート」として区別されることがあります。健常者のマラソン大会に車いすの選手が出場する際に設けられる区分は「車いすの部」または「車いす部門」とも称され、海外の大会における"wheelchair division"の訳語として使われます。

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