永田晋治

東京大学教授　永田晋治氏の研究人生：波乱と成功の軌跡

永田晋治氏は、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻に所属する教授である。専門は生物有機化学と昆虫科学で、国際的な学術論文ではShinji Nagataとして知られている。永田氏の研究人生は、数々の発見、受賞、そして研究室の変遷を経験した波乱に満ちた道のりであった。

研究の始まり：PTTH受容体探索とGHITM

東京大学農学部農芸化学科在籍中、永田氏は鈴木昭憲教授、長澤寛道教授の下で生物有機化学研究、そして依田幸司教授のもとで分子生命工学を学ぶ。大学院では、昆虫の脱皮変態を制御する重要なホルモンである前胸腺刺激ホルモン（PTTH）に着目。その糖鎖構造を解明する研究に取り組み、PTTH受容体の同定に挑んだ。PTTHは学術的に非常に重要なホルモンであり、その構造決定に貢献した研究者たちが数々の栄誉に輝いているほどである。永田氏の努力にも関わらず、当時PTTH受容体の同定には至らなかったものの、1998年に博士号を取得した。

その後、GHITMと呼ばれる膜タンパク質がPTTH受容体として同定されたという報告がなされた。この発見は、永田氏にとっても大きな転機となった。約3億円の重点領域研究費の報告書の主要成果に位置づけられたこの発見は、永田氏が米国留学する直前に発表された。帰国後、片岡宏誌教授が主宰する分子認識化学研究室に所属し、1999年8月には約4億円の大型研究費を獲得した。これは、当時助教授に着任したばかりの東原和成氏の嗅覚研究の立ち上げに大きく貢献した。また、この研究費は、当時創設されたばかりの学振特別研究員（SPD）の受け入れにもつながった。しかし、現在ではPTTH受容体としてTorsoが報告されており、GHITMはミトコンドリア内膜に局在するタンパク質であることが判明している。

研究方向の転換と新たな発見：HemaP

2002年、永田氏は長澤寛道教授が率いる生物有機化学研究室の助教に就任。これまでの研究から方向転換し、昆虫の摂食行動や甲殻類のホルモン受容体に関する研究に着手する。2年ほどでGHITMに関する研究を終え、新たな研究分野へと進出した。一方で、永田氏の研究によって始まった分子認識化学研究室におけるGHITM研究は、その後10年近く続き、多くの研究者や学生に影響を与えた。

2011年には、カイコの摂食行動に影響を与えるタンパク質HemaPを発見。その研究成果をJBC誌に発表し、日本農芸化学会奨励賞と日本比較内分泌学会最優秀賞を同時に受賞する快挙を成し遂げた。しかし、この成功の裏には、研究不正事件も影を落とした。HemaPの精製に携わった永田氏の教え子が、後に研究不正で懲戒解雇相当の処分を受けた加藤茂明研の研究者と関わることになった。永田氏自身は研究不正に関与していなかったが、この事件は永田氏にとっても大きな衝撃であった。

准教授への昇進と現在の研究

2012年には、東原和成氏の異動に伴い、新領域創成科学研究科の准教授に昇進。分子認識化学研究室に10年ぶりに復帰した。その後は、フタホシコオロギを用いた研究や、イオン輸送ペプチド受容体の研究に取り組む。7年間で指導した7人の学生が論文賞を受賞するなど、教育面でも大きな成果を上げた。2021年には教授に昇進し、2023年度からは先端生命科学専攻の専攻長を務めている。

研究不正問題と今後の展望

2024年4月、永田氏の配下である岩崎渉氏の研究室が突如閉鎖され、その理由は公表されていない。この出来事は、研究活動における倫理問題の深刻さを改めて示唆している。

永田氏の研究人生は、成功と困難が織りなすドラマチックな道のりであった。今後も、昆虫科学、生物有機化学の分野において、更なる貢献が期待されている。

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