永田生慈

永田生慈：葛飾北斎研究の巨匠とその遺産

永田生慈（1951年-2018年）は、日本の浮世絵研究、とりわけ葛飾北斎研究において卓越した功績を残した研究者です。幼少期に古書で出会った北斎の『画本早引』をきっかけに、生涯にわたる北斎への情熱が燃え上がりました。この出会いを契機に、十代の頃から北斎作品蒐集を開始し、その情熱は生涯を通して途絶えることはありませんでした。

島根県津和野町出身の永田は、浮世絵研究の第一人者である楢崎宗重に師事するため立正大学文学部に入学しました。在学中から、北斎専門の研究雑誌『北斎研究』の編集に関わるなど、早くから研究活動に身を投じていました。同雑誌は2016年に休刊するまで永田氏の尽力によって刊行が続けられました。

大学卒業後、1977年には太田記念美術館に勤務。副館長兼学芸部長として活躍する傍ら、国内外の北斎展の監修を務め、数々の著作を発表しました。その専門知識と情熱は、北斎研究の新たな地平を切り開く原動力となりました。

永田氏の情熱は、単なる研究活動に留まりませんでした。1990年には郷里の津和野町に葛飾北斎美術館を開設し、館長として運営に携わりました（2015年閉館）。この美術館は、北斎作品を広く一般に紹介する拠点として、地域文化の発展にも大きく貢献しました。

永田氏の北斎に対する深い理解と愛情は、多くの著作にも反映されています。数多くの書籍や論文を発表し、北斎の作品を多角的に解説することで、北斎研究の進展に大きく貢献しました。『葛飾北斎年譜』、『北斎の絵手本』、『北斎漫画』など、その著作は、今日でも北斎研究において重要な参考文献として高く評価されています。

さらに、永田氏は北斎研究における成果を著述にとどまりませんでした。2000点を超える膨大な北斎コレクションを所有しており、そのコレクションは、2017年に島根県へ寄贈されるという、大きな決断がなされました。このコレクションは、現在島根県立美術館に収蔵され、貴重な文化遺産として後世に伝えられています。

永田氏の功績は、日本国内にとどまりません。2016年には、フランス文化省から芸術文化勲章オフィシエを受章。国際的にもその功績が認められました。

2018年2月6日、永田生慈氏は肺癌のため66歳で逝去しました。しかし、その功績は、島根県立美術館に収蔵されたコレクション、そして数多くの著作を通じて、今後も長く人々の記憶に刻まれ続けることでしょう。永田氏の遺志により、2019年の「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」を最後に、所蔵コレクションの島根県外での公開は行われていません。北斎への飽くなき探究心と、その研究成果を広く共有しようとした情熱は、日本の浮世絵研究、そして北斎研究に大きな足跡を残しました。

永田生慈氏の生涯と業績は、単なる研究者のそれにとどまらず、情熱と献身によって築き上げられた、日本の文化遺産を守り、未来へと繋ぐための、重要な物語となっています。

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