永称寺 (台東区)

永稱寺

東京都台東区に静かに佇む永稱寺は、浄土真宗本願寺派に属する由緒ある寺院です。その歴史は鎌倉時代に遡り、親鸞聖人の高弟であった浄念師によって開かれたと伝えられています。宝治年間（1247年～1249年）のことです。当初、寺は下野国那須郡武部村、現在の栃木県にあたる地に創建されました。

時を経て江戸時代、寛永年間（1624年～1644年）に、永稱寺は現在の台東区の地に移転しました。この移転は、江戸が日本の中心として発展していく中で、多くの寺院が都市部に集められた動きの一つと考えられます。下野の地から江戸へと拠点を移した永稱寺は、この地で地域社会の信仰の拠点として歩み続けることとなります。

永稱寺の特筆すべき点は、豊富な寺宝にあります。特に江戸時代後期に活躍した画家であり俳人でもあった酒井抱一にゆかりの深い品々が多く伝えられています。抱一は永稱寺の近隣に住んでいた時期があったとされ、寺との間に深い交流があったことを偲ばせます。これらの寺宝は、単に古い物品というだけでなく、江戸文化の一端を伝える貴重な存在として、台東区の文化財に指定され大切に守られています。

台東区の文化財に指定されている寺宝には、いくつかの重要な作品が含まれています。

歳寒三友図: 松、竹、梅という厳しい冬に耐える三つの植物を描いた作品で、文人の象徴として古くから描かれてきました。平成10年度に台東区の有形文化財として登録されました。
聯（れん）: 対になった書画のことです。抱一によるものと伝えられるこの聯は、平成13年度に有形文化財に登録されています。書斎などを飾るために用いられたと考えられます。
俳書: 俳句を記した書物や巻物などを指します。こちらも抱一に関連するもので、平成13年度に有形文化財に登録されました。抱一の俳人としての側面を示す資料です。
紙本着色金亀図: 紙に色が付けられた亀の絵図です。特に金色が用いられている点が特徴かもしれません。平成19年3月に有形文化財として登録されました。

これらの文化財は、酒井抱一の多才な芸術を示すだけでなく、江戸時代における文人墨客と寺院との密接な関係性を伝える貴重な史料となっています。特に、抱一が得意とした琳派の流れを汲む表現や、俳諧に対する深い造詣を示す品々は、当時の江戸の文化水準を知る上で非常に重要です。台東区がこれらの寺宝を文化財として登録し保護していることは、地域が持つ歴史的、芸術的な遺産を守り、後世に伝えていこうとする強い意志の表れと言えるでしょう。

永稱寺へのアクセスは比較的便利です。東京メトロ日比谷線の入谷駅からは4番出口を利用して徒歩約6分、またJR鶯谷駅からも徒歩約7分で到着することができます。都心にありながら、静寂の中で歴史と文化に触れることができる寺院です。

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