永続的識別子

永続的識別子（Persistent Identifier, PID）

永続的識別子（えいぞくてきしきべつし、英語では Persistent Identifier、略称PID）は、デジタル化された情報資源、すなわち電子ファイル単体や、複数の関連ファイルからなる集合体を、時間や場所による変化に影響されずに継続的に参照するための仕組みです。

インターネット上で公開されている情報資源は、そのURL（Uniform Resource Locator）によって場所が示されます。しかし、ウェブサイトの移転やファイルの整理などにより、URLは容易に変更されたり、アクセス不能になったりします。これにより、「リンク切れ」と呼ばれる現象が発生し、過去に参照された情報資源に再びアクセスすることが困難になります。特に、学術研究論文や政府の公文書、デジタルアーカイブなど、長期にわたって正確な情報にアクセスする必要がある分野では、これは大きな問題となります。

永続的識別子（PID）は、この問題に対する解決策として考案されました。PIDは、特定の情報資源そのものに付与される固有のコードであり、その「場所」ではなく「何であるか」を識別することを目的としています。PID自体は場所を示す情報を含まず、そのPIDが示す情報資源が現在どこにあるかを知るためには、「レゾルバー」と呼ばれる仲介システムを利用します。レゾルバーは、PIDと現在の所在情報（URLなど）の対応関係を管理しており、ユーザーがPIDをレゾルバーに提示すると、レゾルバーは最新のURLを返します。情報資源の場所が変わった場合でも、レゾルバーが管理する対応情報を更新するだけで、PIDを使った参照は継続的に有効であり続けるのです。

様々な種類の永続的識別子システムが存在し、それぞれ異なる用途や管理体制を持っています。代表的なシステムとしては、以下のようなものが挙げられます。

デジタルオブジェクト識別子（DOI: Digital Object Identifier）: 主に学術出版物（論文、書籍など）や研究データの識別に使用されます。学術コミュニケーションの分野で広く普及しており、出版物の信頼性や引用の追跡に貢献しています。
恒久統一資源位置指定子（PURL: Persistent Uniform Resource Locator）: もともとは図書館情報学の分野で開発されました。URLを指し示すリダイレクトサービスとして機能し、参照先のURLが変更されてもPURL自体は変わらず、仲介者がURLの更新を行うことで永続性を保ちます。
Uniform Resource Name（URN）: インターネット標準の一部として定義された識別子で、特定の情報資源に永続的な名前を付与することを目指しています。ISBN（国際標準図書番号）などもURNの一種とみなすことができます。
Archival Resource Keys (ARKs): 図書館やアーカイブ機関で、デジタル資料や物理資料の識別と管理のために開発されたシステムです。広範囲のデジタルコンテンツに対応し、柔軟な識別子設計が可能です。
* Extensible Resource Identifier (XRI): 識別子自体に構造を持たせ、機械可読性を高めることを目的とした識別子です。

これらのシステムは、それぞれ異なる技術的基盤やガバナンスモデルを持ちながらも、「デジタル資源を永続的に特定し、信頼性のある参照を可能にする」という共通の目的を達成しようとしています。

永続的識別子は、デジタルアーカイブの長期的な維持管理、研究データの共有と再利用、政府情報の公開と保証など、社会の様々な分野でデジタル資源の信頼性と持続可能性を支える重要な技術基盤となっています。デジタル情報が増大し、その重要性が高まるにつれて、PIDの役割はますます大きくなると考えられています。

PIDは、単なるコードではなく、それを維持管理するためのシステムや組織、そしてコミュニティの協力があって初めてその永続性を実現できる仕組みであり、デジタル時代の情報インフラとして不可欠な要素と言えるでしょう。

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