求安録

『求安録』の概要

『求安録』は、無教会派の創始者である内村鑑三が残した代表的な著作であり、特に信仰と人間の苦悩について深く考察した作品となっています。この著作は、彼の他の作品『基督信徒の慰』の後編的位置づけとなるもので、多くの文化人や思想家にも多大な影響を与えてきました。

経緯

この本は1891年から1893年にかけて執筆されました。当時、内村は大阪で活動しており、この時期にほぼ完成させました。その後の1893年の熊本時代に、ようやくその印刷が行われ、一般に出版される運びとなりました。鎖国体制から抜け出した日本の文化が西洋と接触を持ち始めた時代背景の中、内村は人間の精神的な側面に目を向け、深い洞察を与える内容を執筆しました。

内容

『求安録』は、二部構成からなる作品です。第1部は「上の部」として、人間が抱える矛盾した姿に焦点を当てています。ここでは「罪を犯し、歎じ、怖れ、失望し、再び同じ罪を犯す」といった苦悩が描かれています。内村は、こうした人間の内面的な葛藤について洞察を深め、その苦しみを軽減しようとする様々な技術や方法（脱罪術）が人間によって発明されてきたことに言及します。

具体的には、人々が信じていたリバイバルや学問、資源の研究、慈善活動、そして神学研究などが挙げられます。内村は、これらの努力が一時的な解決策にはなるものの、根本的な苦しみからの解放には至らないことを認識していました。

第2部すなわち「下の部」では、人間がどのように神によって用意された救いを受け取ることができるのかを探ります。内村は、その救いは、神の独り子であるイエス・キリストを心から受け入れ、信じることによって得られると強調しています。この点において、彼は信仰の重要性を再三にわたり訴えており、信者の実際の生活における精神的支えとなるでしょう。

この著作は、内村の思想がどのように形作られていったのか、また、彼の信仰がもたらす実際の影響を示す重要な一端を成しています。彼が直面していた社会的、宗教的課題とそれに対する解決策を考える手助けとなる文献であるため、今でも多くの人に読まれ続けています。内村鑑三の実存的な探求や、神への信仰を深く理解するために、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

参考文献

• - 関根正雄『内村鑑三』清水書院、1967年
• - 鈴木範久『内村鑑三』岩波書店、1983年

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