江口きち

江口きちについて

江口きち（1913年11月23日 - 1938年12月2日）は、日本の女流歌人であり、彼女の短歌には独特の感性と美しさがあふれています。群馬県利根郡で生まれた彼女は、家庭の貧困という厳しい環境の中で育ち、その情況が彼女の詩情に大きな影響を与えました。江口は、河井酔茗や島本久恵に学びながらも、自身の感受性を基にした歌を創作しました。

江口の生涯は、決して平坦ではありませんでした。父の熊吉は博徒で、ほとんど家庭を支えられず、母のユワは飲食店を切り盛りしながら三人の子供を育てました。兄は幼少期に脳膜炎を患い知的障害を持っており、家庭には多くの困難がありました。江口は、川場村の尋常高等小学校で優秀な成績を収めたものの、経済的な事情から進学を断念せざるを得なかったのです。

1930年からは郵便局で働き始めますが、母の死去を受けて帰郷し、家族を支えるために家業を継ぎました。その後、小学校の教師に勧められ、『女性時代』に短歌を発表することになります。この頃から彼女の歌は次第に評価され、1937年には群馬県歌人協会に入会しました。彼女の短歌は、当時の社会背景や個人的な悲しみを反映したものとして、多くの人々の心に深く響きました。

江口の短歌には、「薄幸の天才歌人」や「女啄木」との異名が付けられているものの、内容は石川啄木の作品とは異なり、万葉調を基にしたものです。彼女の作品には、家計への心配、愛の苦しみ、郷里への思いなど、様々な感情が込められています。特に有名な作品の中には、彼女がマイナスの感情を扱ったものも多くあります。

1938年12月2日、江口は生活苦のため、未成年の兄と共に服毒自殺を選びました。彼女の辞世の句には、切なさと孤独が表現されており、彼女の短歌作りに対する真摯な姿勢がうかがえます。彼女の死は、短歌界において大きな衝撃を与え、その才能を惜しむ声が上がりました。

江口の作品は、彼女の死後も生き続けています。1939年には河井酔茗の選によって『武尊の麓』が刊行され、江口の短歌集も肉筆覆刻本として発刊されました。彼女の歌は、今も多くの人々に愛され、語り継がれています。江口きちの短歌は、彼女自身の苦悩と希望の象徴であり、日本の歌壇に重要な位置を占めていると言えるでしょう。彼女の人生と作品は、短歌を通して人々の心を深く打つものであり、その存在は決して忘れ去られることはありません。

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