江戸の夕映

江戸の夕映：幕末の愛憎劇と夕焼けの美しさ

大佛次郎作の『江戸の夕映』は、1953年に初演された歌舞伎作品であり、翌年には映画化もされました。この作品は、幕末から明治維新へと激動する時代を背景に、愛と別れ、そして時代のうねりに翻弄される人々の生き様を描き、深い感動と余韻を残します。

物語は、大政奉還後の慶応4年（1868年）から始まります。旗本松平掃部の娘、お登勢を許婚とする幕臣本田小六は、徳川への未練を断ち切れず、函館戦争へと赴きます。友人の忠告も聞かず、お登勢に別れの文を残して江戸を離れます。

函館戦争は榎本武揚の降伏によって終結しますが、小六は帰郷しません。貧しく暮らす掃部親子の元に、横暴な総督府参謀吉田逸平太が現れ、お登勢を妾にしようと強引に迫ります。掃部は逸平太を追い払いますが、執拗な逸平太は諦めません。

そんな中、小六と似た人物がお登勢の友人おりきによって発見されます。戦後の苦労でやつれ果て、別人になったかのような小六の姿に衝撃を受けるおりきですが、お登勢との再会を促します。

悲願の再会を果たしたお登勢は、静かに小六に別れの文を手渡して涙を流します。小六はその手紙を破り捨て、二人の愛は時代を超え、再び結ばれることになります。外では夕立が止み、美しい夕映えが江戸の町を染めます。この夕映えは、失われた過去と、新たな未来への希望を象徴しているかのようです。

舞台版と映画版では、一部内容や登場人物に違いがあるものの、全体的な物語の流れは共通しています。映画版では、『螢草』の久板栄二郎が脚色、『陽は沈まず』の中村登が監督を務め、市川海老蔵の映画デビュー作となりました。撮影は生方敏夫、音楽は黛敏郎と、錚々たるスタッフ陣によって制作されました。

歌舞伎公演では、1997年を除き、主人公本田小六を歴代の市川海老蔵（團十郎）が演じてきました。これは、市川家にとって重要な演目であり、それぞれの時代の海老蔵が、この役柄に独自の解釈を加えてきたことを示しています。

『江戸の夕映』は、大佛次郎の緻密な脚本と、豪華なキャスト、そして時代考証に基づいた精巧な舞台装置や衣装によって、幕末の時代を生き生きと再現しています。時代劇としての完成度の高さに加え、普遍的な愛の物語として、多くの人々の心を捉え続けている、まさに不朽の名作と言えるでしょう。

また、この作品は、単なる時代劇にとどまらず、激動の時代の中で、人々がどのように生き、何を大切にしてきたのかを問いかける、深く考えさせられる作品でもあります。時代を超えて、多くの人々に感動と共感を呼び起こす『江戸の夕映』は、これからも語り継がれるべき日本の宝と言えるでしょう。

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