江戸二色

「江戸二色」（えどにしき、または江都二色とも）は、江戸時代に刊行された玩具絵本であり、その内容は当時の子どもたちの遊びや文化を現代に伝える貴重な資料となっています。1773年（安永2年）に刊行されたこの絵本には、当時江戸で流行していた88種類もの玩具が描かれており、それぞれの図には木室卯雲による題歌が添えられています。序文は大田南畝が、図は北尾重政が担当しており、当時の文化人たちの交流や趣味の一端を垣間見ることができます。

この絵本が刊行された背景には、当時の文人たちの間で盛んだった趣味や遊びの文化があります。大阪府立中之島図書館の森田敏雄氏によれば、「江戸二色」は文人たちの趣味の一環として刊行されたと推測されています。特に、安永・天明年間には狂歌のグループが活発で、そこから発展した「宝合会」という集まりが開催されていました。これは参加者が「宝に似て非なる物」を持ち寄り、その由来をこじつけて披露するというもので、北尾重政の弟子たちも参加していたことが知られています。

森田氏の推測によれば、編者である木室卯雲の周辺にも玩具を趣味とするグループが存在し、そこで集められた玩具とその解説文をまとめたものが「江戸二色」であると考えられています。この説は、当時の文化人たちの交流や、遊びへの情熱を示すものであり、絵本が単なる玩具の図録に留まらない文化的意義を持つことを示唆しています。

また、1826年（文政9年）に柳亭種彦が記した随筆「還魂紙料」には、「江戸二色」のタイトル由来に関する記述が残されています。それによると、木室卯雲が幼い頃に目にしていた玩具を、新旧問わずそれぞれ二色ずつ集めて「江戸二色」と題したとされています。この逸話は、絵本に込められた著者の個人的な思いや、当時の玩具に対する人々の関心の深さを物語るものです。

「江戸二色」は、単に玩具の図録としてだけでなく、当時の社会、文化、人々の生活様式を理解する上で非常に重要な史料です。特に、享保から安永年間にかけての玩具や、児童の生活を知る上では欠かせない資料であり、その芸術的価値も高く評価されています。この絵本を通じて、私たちは過去の文化や人々の暮らしに触れ、歴史への理解を深めることができるでしょう。

参考文献

希書複製会 編『江都二色』米山堂、1931年。NDLJP:1187053。
森田俊雄『おもちゃ絵画家・人魚洞文庫主人川崎巨泉のおもちゃ絵展とその画業の周辺について』（レポート）中之島図書館、2006年。https://www.library.pref.osaka.jp/uploaded/attachment/469.pdf。
斎藤良輔「日本人形玩具辞典」（東京堂出版） 43頁
斎藤良輔「郷土玩具辞典」（東京堂出版） 51頁

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