江戸家猫八 (初代)

初代 江戸家 猫八

（えどや ねこはち）

初代江戸家猫八は、明治から昭和初期にかけて一世を風靡した物真似芸人です。1868年4月25日に栃木県で岡田信吉として生を受け、1932年4月6日にこの世を去りました。日本画家である岡田梅村は彼の兄にあたります。

経歴

岡田信吉は、当初は歌舞伎の道を志し、三代目片岡市蔵の門下に入り、坂東かつらを名乗った後に片岡市之助として女形を演じていました。しかし、1898年頃に鉛毒が原因で下半身に麻痺が残り、舞台に立つことが困難となったため、やむなく役者の道を断念し廃業に至ります。

一度は芸能の世界から離れたものの、彼は新たな活路を見出そうとします。1905年3月には、寄席への出演を懇願し、二代目三遊亭小圓朝に師事して落語家となり、「半馬」という名で両国の立花で初高座を踏みました。しかし、この落語家としての活動も長くは続きませんでした。

その後、明治の末期になると、彼は富岡八幡宮など神社の境内で飴を売り歩きながら、副業として鳥や獣の鳴き真似を披露するようになります。これが評判を呼び、次第に多くの人々の人気を集めるようになりました。その独特の芸が、柳派の事務職であった二代目春風亭大与枝の目に留まります。さらに、三代目柳家小さんも彼の芸を高く評価し、一座に迎え入れようとしました。

しかし、彼が「柳家」の屋号を名乗ることに対して、周囲から強い反発があったため、これは実現しませんでした。そこで、二代目春風亭大与枝が、自身の故郷である上州舘林に伝わる講談に登場する侠客「江戸家虎五郎」の名と、かつて実在した物真似芸人の名「猫八」を組み合わせて、「江戸家猫八」という新しい芸名を彼に授けました。こうして、彼は再び寄席の舞台に立つこととなったのです。

芸人として円熟期を迎えた頃、彼は巡業先の群馬県高崎市で突然倒れ、そのまま息を引き取りました。享年は65歳であったといわれています。墓所は東京都の雑司ヶ谷霊園にあります。

芸風

初代江戸家猫八の芸は、単なる鳥獣の鳴き真似に留まりませんでした。観客との軽妙な掛け合いや、時事ネタを交えた独特の毒舌、そして言葉遊びともいえる駄洒落問答などを得意とし、物真似と話芸を融合させた独自のスタイルを確立しました。その人気は絶大で、独演会を開催するほどでした。当時の音声を記録したSPレコードが30枚近く現存しており、当時の彼の芸の片鱗をうかがい知ることができます。

後世

初代猫八の芸は、弟子たちに受け継がれました。二代目江戸家猫八は、初代を見出した二代目春風亭大与枝の子息が襲名しています。また、初代の六男も父親譲りの華やかな声質で芸を受け継ぎ、1950年に三代目江戸家猫八を襲名しました。初代が築いた物真似芸の伝統は、その後も江戸家として連綿と続いています。

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