江戸鹿子

『江戸鹿子』の概要

『江戸鹿子』（えどかのこ）は、江戸時代前期に藤田理兵衛によって編纂された江戸の地誌です。この書は貞享4年（1687年）11月に江戸京橋南新両替町の小林太郎兵衛によって刊行されました。著者に関する情報はほとんど知られておらず、他の著書も伝わっていませんが、『江戸鹿子』は江戸前期の社会や文化を知るための貴重な資料とされています。

本書は、貞享2年（1685年）に発刊された京都の地誌『京羽二重』に影響を受けており、その構成には京都の名物を多彩に紹介する姿勢が見られます。『京羽二重』が京都を広範に紹介したのに対し、『江戸鹿子』では、鹿の斑点模様を指す「鹿子」という言葉がタイトルに用いられています。これは当時流行していた鹿の子絞りという技法に由来し、江戸で女形の二代目伊藤小太夫が着用したことで有名になり、上方にも逆輸入されました。このような背景が、武蔵野の広大さを示しつつ、『江戸鹿子』という名称の由来にもなっているのです。

構成と内容

『江戸鹿子』は地誌によく見られる地域別の項目配置ではなく、テーマごとに分類されています。こうした構成は、情報の検索性を高めるために工夫されており、内容の長さはさまざまです。項目によっては単なる抄録に留まる事物のリストも見受けられますが、江戸の商工業の具体的状況を知る上での重要な資料となっています。また、先行して発行された『紫の一本』との類似性があり、いくつかの部分で影響を受けていることが確認されています。

各巻の内容

• - 第一巻: 江戸で用いられる地名や物事について、所在地とその由来を解説しています。
• - 第二巻: 様々な行事に関する詳細が含まれており、江戸城での武家行事や町人が関わる祭り、日枝神社における山王祭の山車、さらには各大名や寺院に伝わる家宝について記載されています。この巻は『玩貨名物記』からの影響が見られます。
• - 第三巻: 主に江戸内外の神社に焦点を当て、位置や歴史、収入についてまとめています。
• - 第四巻: 武蔵国内の主要な寺院の情報を宗派ごとに分類し、寺の歴史や本尊、境内の石高について詳述しています。
• - 第五巻: 江戸の南北や東西に走る通りごとに町名と商業施設の情報を列挙し、町の商業状況を概観しています。
• - 第六巻: 医師や技術者の名前と住所、専門職の情報をまとめ、江戸前期の商業の変遷を推察するための重要な資料となっています。

後継書と影響

『江戸鹿子』は、その後の江戸地誌における基盤となり、他の地域でも類似の地誌が作られるきっかけとなりました。元禄期に入ると、様々な編纂が行われ、『ゑ入江戸惣鹿子』や『増補江戸惣鹿子名所大全』が発表されました。これらの作品は、特に挿絵や内容の充実を図り、多くの読者に親しまれました。『江戸鹿子』に見られるテーマ別の情報整理のスタイルは、その後も影響を与え続け、江戸の風物誌や地誌の発展に寄与しました。

このように、『江戸鹿子』は単なる地誌ではなく、江戸時代の商業や文化を理解する上で重要な資料であり、今なお多くの研究の対象となっています。

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